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平成18年度科学研究費補助金特別推進研究(新規)及び特定領域研究(新規の研究領域)の交付決定
−大型科研費3件新規採択−

 このたび,文部科学省から平成18年度科学研究費補助金特別推進研究(新規)及び特定領域研究(新規の研究領域)の交付決定の通知がありました。
 特別推進研究(新規)の交付決定件数は2件,決定金額は約2億3千3百万円(間接経費を含む。)で,特定領域研究(新規の研究領域)の交付決定件数は領域代表1件を含む11件,決定金額は約1億8千8百万円であり,昨年度と比較し特別推進研究(新規)は1件,約1億7千6百万円(間接経費を含む。)増加し,特定領域研究(新規の研究領域)は7件,約1億2千3百万円増加しました。
 なお,今回大型科研費で新規採択となった研究代表者3名は次のとおりです。

【特別推進研究(新規)】
○理学研究院・教授・龔 剣萍
○理学研究院・教授・? 剣萍 
研究課題名 生命科学の時代が求める新材料−ソフト&ウェットマテリアルの創製
研究期間 平成18年度〜22年度
平成18年度決定金額 直接経費81,400千円
間接経費24,420千円
生体軟組織に匹敵する高機能ゲルを創成し,生体代替軟組織へ応用する
 人類はこれまで様々な生体代替システムを開発しましたが,多くは金属,セラミックスといったハード&ドライの材料で作られています。そのために生物を構成する軟組織に比較して,しなやかさ,衝撃吸収性,物質輸送能,生体適合性などが決定的に欠けており,真に生体軟組織に代わる物質・材料には成り得ませんでした。ここから,ハード&ドライ材料から脱却し,生体軟組織に代替するソフト&ウェットマテリアルを創製するという豊かな医療・福祉社会を目指す上で不可避の重要課題が生まれます。
 人類の歴史を振り返ってみると,飛躍的な進歩は全て材料革命の上で構築されたことに気づきます。生体軟組織のようにしなやかで丈夫な含水軟材料の実現は,石器→土器・セラミックス→金属→プラスチックスに次いで,21世紀の生命科学の時代における材料科学の緊急課題です。
 生体軟組織に代替するソフト&ウェットマテリアルとして,(1)力学機能(しなやかさ,優れた力学強度,衝撃吸収能),(2)界面機能(低流体抵抗,低滑り摩擦,他の生体組織との反応性,細胞,骨などとの接着性),(3)物質輸送機能(蛋白質,糖などの栄養物質の輸送,ホルモン,イオンなどの情報伝達)などを併せ持たなければなりません。ゲル状物質のみがそれらを実現しえます。これが本研究の問題意識です。
 しかしながら,現在我々がこれまで手にしていた合成高分子ゲルは生体組織と比べると,定性的には類似した性質が見出(みいだ)されるものの,定量的には大きな隔たりがありました。例えば,軟骨のような生体軟組織は激しい運動に耐える高い強度と衝撃吸収能を同時に有します。それに対し,従来のゲルの弾性率と破壊強度は軟骨の百分の一〜千分の一しかなく,力学的に極めて弱いものです。そのため従来のゲルは生体に代わる材料としては全く使いものになりませんでした。
 我々の研究グループは近年,メゾスコピックな複合構造を導入することで,飛躍的な高強度を有するダブルネットワークゲル(DNゲル)の創製に成功しています。さらに,高分子ブラシを導入することで極低摩擦性を示すゲルの創成にも成功しています。これらの一連の新発見は,ゲルの内部構造をさまざまなスケールで意図的に制御するという従来とは全く異なったアプローチによって,合成ゲルに生体軟組織に匹敵する高機能を付加できることを物語っています。
 本研究では,我々のグループが歩んできた独創的なソフト&ウェットマテリアル研究を更に発展させ,材料科学の観点から生物の本来の機能を問う生命科学に体系的にアプローチするという全く新しい研究展開を図ります。具体的には,生体軟組織の秩序/複合/階層構造をヒントに,高い力学強度としなやかさ,それに高機能を同時に実現するようなゲルをデザインし,合成化学と生合成の手法を縦横に活用して創製します。これらのゲルが持つ力学特性,界面特性,輸送特性を解析し,その秩序/複合/階層構造との関連を解明します。さらに,生体軟組織と比較することによって,生物の優れた機能発現の原理を物質科学的な視点から解明します。「生物をヒントに新たなゲルの創製」と「そうしたゲルの構造と物性の相関を解明」というサイクルによって,生体適合性と優れた機能を併せ持つゲルを開発し,ソフト&ウェットな人工血管,人工関節軟骨,人工腱(けん)などの真の生体代替軟組織を実現します。
 これらの研究を通して,最終的には,ソフト&ウェットマテリアルの科学という新分野の創成を目指します。
 高分子ゲル: 多量の水を含む高分子の三次元網目で,生体の含水軟組織に最も類似したソフト&ウェットマテリアルです。ゲルという物質状態は,固体と液体の中間に位置するととらえることもでき,形を保持しながらも物質透過性をもつ,魅力的な材料です。

○情報科学研究科・教授・福井孝志
○情報科学研究科・教授・福井孝志 
研究課題名 有機金属気相選択成長法による半導体ナノワイヤエレクトロニクスの創成
研究期間 平成18年度〜22年度
平成18年度決定金額 直接経費98,100千円
間接経費29,430千円
 現在の半導体エレクトロニクスの中核を担うシリコンLSI技術では,高集積化に伴う複雑さの増大や,社会の多様なニーズに対応をせまられるなど,様々な課題を含んでいます。そこで,原理的・革新的なブレークスルーを目指したアプローチが求められており,ナノテクノロジの視点からは,LSI技術に代表されるトップダウン手法に対して,分子・原子レベルの集合体から出発するボトムアップ手法が注目され,様々な材料系でナノスケールレベルでの構造制御の課題に取り組んでいます。
 本研究では,有機金属気相選択成長法と呼ばれる独自の手法により,数十nmの直径を有する半導体細線構造である「半導体ナノワイヤ」の形成技術を確立することを目的としています。これまでの典型的な形成技術は,半導体薄膜上にランダムに形成された触媒金属微粒子を核として,特定の方向に半導体を成長させる気相―液相―固相(VLS)法であり,代表的なボトムアップ技術です。しかし,ボトムアップ技術であるため位置制御・サイズ制御に難があること,また表面の処理が適切になされていないため,発光特性・電気伝導特性などに課題がありました。このような国内外の状況のなかで,我々はトップダウンとボトムアップ手法を融合した独自の結晶成長法により,上記の多くの課題を解決することで,半導体ナノワイヤ研究分野の新たな技術展開を目指しています。
 従来の半導体薄膜や2次元電子系の量子井戸構造と比較して,本研究による半導体ナノワイヤは純粋な1次元電子系であるため,それに起因する新しい量子効果あるいは表面積効果や,電子物性・光物性等の基礎特性を明らかにすると共に,全く新しい「半導体ナノワイヤエレクトロニクス」の創成を目指します。これによりナノ発光素子,単電子素子,バイオケミカルセンサ,ナノキャパシタ,高密度面発光レーザ,高集積縦型ナノFET等,様々な新しいデバイス応用が期待されます。
有機金属気相選択成長法による半導体ナノワイヤエレクトロニクスの創成

【特定領域研究(領域代表者)】
○工学研究科・教授・宮浦憲夫
○工学研究科・教授・宮浦憲夫 
領域課題名 元素相乗系化合物の化学
研究課題名 高効率分子変換における遷移金属−典型元素複合系
研究期間 平成18年度〜21年度
平成18年度決定金額 直接経費直接経費56,400千円(総括班 3,600千円含む)
 現代の科学と科学技術の発展は,原子レベルで構造制御された機能性物質群の創製に大きく依存します。これは,複数の元素がある種の組成と配列あるいは空間配置に制御されたとき,元素間に様々な相互作用や協同効果が現れ,単独の元素では実現できない新たな機能が生まれるからです。この特定領域研究では,複数元素の相乗的な働きによって優れた機能を発現する分子性化合物やそれらの複合体を「元素相乗系化合物」と定義し,その基礎と応用を追求することにより,独創的で優れた機能をもつ新反応や新物質を開発することを目的としています。
 対象とする元素は周期表の中程に広がる高周期元素で,これらの元素間結合が創り出す機能性化合物を研究します(図1)。これらの化合物は機能の宝庫と言われる魅力的な研究対象ですが,一般に不安定で合成は困難であると考えられてきました。1990年代以降に,我が国で2つの特定領域研究が実施され,高周期元素化合物の合成法が集中的に研究されました。これにより,優れた機能をもつ分子性化合物を,さまざまな元素を用いて精密に合成できる時代へと変わってきました。我が国が世界にさきがけて培ってきたこれらの研究実績をもとに,高周期元素化合物の高度利用をめざした機能重視の物質化学に挑戦したいと考えています。具体的課題には,新たな元素間結合の発見と構築および機能の解明(図2),典型元素/遷移元素あるいは典型元素/典型元素の特性を融合した高活性触媒や機能性物質の開発(図4),遷移元素を2次元あるいは3次元に精密に構造制御して組み上げた金属クラスターやナノクラスターの構築と機能の発見(図3),複合型元素化合物を用いてはじめて実現可能な高効率有機合成反応・無機合成反応の開発などがあります。
 安全で機能と性質に優れた物質の創製は化学に託された最重要課題のひとつです。高周期元素化学の大いなる可能性を追求することによってこの課題に挑戦したいと考えております。
図1
図2
図3
図4
(学術国際部研究協力課)

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