名誉教授 戸谷富之氏は,平成18年7月12日肺炎のため,御逝去されました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,大正5年8月19日長野県に生まれ,昭和16年3月東京帝国大学理学部物理学科を卒業後,同年4月本学(当時:北海道帝国大学)理学部助手に着任されました。昭和18年3月本学理学部講師を嘱託され,昭和19年4月本学理学部助教授に任ぜられ,昭和23年4月本学触媒研究所助教授に配置換されました。昭和35年5月「一価金属の格子振動と熱膨張」により東京大学から理学博士の学位を授与されました。同年10月本学触媒研究所教授に任ぜられて触媒構造学部門を担当され,昭和47年8月からは酸塩基触媒部門を担当されました。昭和55年4月1日限り定年により退職されるまでの39年間,教育研究に従事されました。さらに同年4月本学名誉教授の称号を授与され,引き続き研究活動に従事されました。
この間,同氏は永年にわたって教育研究に努められ,主として固体物理学および固体表面科学の理論的研究において顕著な功績を残されました。
同氏は,昭和30年4月より退職するまで本学大学院理学研究科の授業を担当され,昭和36年12月から昭和41年10月まで本学理学部物理学科教授を兼担され,後進の育成に尽力されました。また,名古屋大学工学部,東北大学金属材料研究所,同大学理学部,京都大学理学部の講師にもそれぞれ併任され,学生の教育指導にあたられました。
また,昭和40年4月から昭和49年3月まで本学触媒研究所長を務められ,部局長,評議員として大学運営の枢機に参画され,また,理学部化学第二学科設立委員会委員,教養部審議会委員などを務められ,教育行政上多大の功績を残されました。
学外においては,触媒学会,日本表面科学会の設立に尽力され,それぞれの副会長,評議員,理事を務められ,また,固体表面国際会議の国際顧問委員会委員,第2回同国際会議組織委員長,アプリケーションズ・オブ・サーフェス・サイエンス(表面科学の応用)誌編集委員を務められ,国内外において斯界(しかい)の発展に寄与するところ大いなるものがありました。
さらに同氏は,専門の科学知識を応用し,筆跡鑑定にわが国ではじめて数理統計学を導入し,鑑定者の経験や勘に頼らない科学的筆跡鑑定の確立に道を拓(ひら)き,斯界に貴重な貢献をなされました。
このように学術,教育,社会活動において多大な功績を重ねられ,平成元年には勲二等瑞宝章をお受けになられました。
ここに,戸谷富之先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
(触媒化学研究センター)
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