北大キャンパス内の遺跡  

弓道場で進められている発掘調査の成果
―現地説明会の開催と新発見速報

 弓道部の新道場建設に先立つ発掘調査が,今年の5月上旬から,中央食堂むかいのサクシュコトニ川ぞいの低地で始められました。弓道場地点のような川ぞいの低地を対象とした本格的な発掘調査をすることは珍しく,調査の成果に大きな期待が寄せられています。
 発掘調査は,現時点(8月上旬段階)で,予定範囲の約7〜8割での調査を終え,いよいよ終盤をむかえました。先月(7月7日)には遺跡で現地説明会が催され,あいにくの小雨にもかかわらず55名ほどの見学者が集まりました。調査室員によってこれまでの発掘経過と中間成果が説明されるなかで,見学者は日頃見慣れている北大キャンパスとはちがった現前に現れた太古の風景に驚きの表情をうかべていました。
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 調査によって明らかとなった地層の堆積(たいせき)状況からは,いくどにもわたるサクシュコトニ川の氾濫(はんらん)によってつくりだされた特徴的な地形の形成過程を,克明に復元することができるようになりました。また,液状化に伴う噴砂や斜面の地すべりといった,地震活動による影響の痕跡(こんせき)も,今回の調査で発見することができました。札幌市域周辺で,いつ,どの程度の規模の地震がかつて起こっていたのかを知るうえでも,この成果は貴重なものです。
 弓道場地点に遺物や遺構を残したのは,今から約千年前の擦文文化の人たちです。サクシュコトニ川ぞいの湿地にできた窪地(くぼち)からは,当時使われていた須恵器(すえき)や擦文土器がまとまって出土しました。「須恵器」とはのぼり窯で高温焼成された土器のことで,本州から搬入された貴重品です。川辺で暮らしていた擦文の人たちが,住居のあった高台から少し離れた川ぞいの湿地にやってきて,そこの窪地に土器をまとめて廃棄した,そんな暮らしの一コマが再現できそうです。
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 現地説明会の後,発掘調査区は南側へと広げられましたが,先日そこで大きな発見がありました。竪穴(たてあな)状の掘りこみが埋まりかかった窪地が上記の土器集中地点から3〜4m離れた場所で発見されましたが,なんとそこには人為的に穿孔(せんこう)された7個のクルミ殻が環状に配置されていたのです。このような類例は今まで知られておらず,おそらく初の発見例となるでしょう。こうなると,先の須恵器を含む土器集中地点も,単なる廃棄場所ではないかもしれません。本発掘の成果は,擦文文化の人たちの精神生活を解明するための貴重な資料として,今後多くの注目を集めるでしょう。

弓道場発掘現場での現地説明会 環状に配置された穿孔クルミ殻の出土
弓道場発掘現場での現地説明会 環状に配置された穿孔クルミ殻の出土
(埋蔵文化財調査室)

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