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附属図書館所蔵洋書を研究して池上重康工学研究科助手が日本建築学会奨励賞を受賞

 工学研究科の池上重康助手が,「開拓使旧蔵建築関係洋書の購入と移管経緯について−開拓使旧蔵建築関係洋書に関する研究 その1−」(『日本建築学会計画系論文集』第573号,2003年11月)により,2006年日本建築学会奨励賞を受賞しました。9月7日(木)に神奈川大学で行われた表彰式では,同氏が受賞者を代表してあいさつを行いました。同賞は,日本建築学会が新進の研究者による独創性・萌芽性・将来性のある建築に関する優れた論文・報告等を対象として表彰するものです。受賞論文は,「北海道の近代建築史再考に寄与するところが大きい」,「日本の近代建築史の基礎資料としても大きな貢献を果たしうる発展性に富む」と高く評価されました。
 同論文は,本学附属図書館札幌農学校文庫・書庫および室蘭工業大学土木専門文庫(旧北海道帝国大学土木専門部蔵書,戦後,室蘭工業大学に移管)所蔵の建築関係洋書の蔵書印を精査して,北海道立文書館所蔵の開拓使文書や本学附属図書館北方資料室所蔵の札幌農学校簿書を読み込むという手法を用い,洋書の購入や本学などに移管されるまでの経緯をたどって,これらが開拓使営繕事業における技術者不在を補完したことを明らかにしています。従来,近代日本における近代科学技術の導入は,お雇い外国人と海外留学生というヒトの往来によって達成されたとするのが定説です。同論文は,建築という分野に限定されたものではあるものの,ヒトの往来以外に,多くの洋書の輸入とそれを参照した模倣が,近代科学技術の導入には欠くことのできない要素であったことを実証的に明らかにしています。そうした意味で,建築史研究に止まらず,日本近代史研究にも新たな知見を提示した成果と言えます。 
 同論文によると,本学附属図書館は,開拓使時代の建築関係洋書を,札幌農学校文庫に63冊,書庫に9冊の計72冊所蔵しています。出版国の内訳は,イギリス25冊,アメリカ38冊,イギリス・アメリカ2冊,イギリス・アメリカ・フランス5冊,ロシア1冊,不詳1冊です。写真を掲載したロシア出版のもの以外は,英語文献です。このように,同論文は,本学附属図書館の蔵書が図書としてのみならず,日本の近代化に大きな役割を果たしてきた歴史の歩みを証言する史料としても学術的に極めて価値の高いことをも明らかにしています。札幌農学校以来の本学の歴史の厚みや,本学が受け継いできた財産の大きさを改めて実感させられる研究です。
『露國家(屋)建築書』 授与されたメダルと表彰状

『露國家(屋)建築書』

 1881年ころに購入され,開拓使工業課から北海道庁を経て北海道帝国大学附属図書館に収蔵された。日本語訳が詳細に墨書で書き込まれており,ロシア式ログハウス建築の参考資料となったと推測される。原文はロシア語。附属図書館所蔵。

授与されたメダルと表彰状

(附属図書館)

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