名誉教授五十嵐日出夫氏は,平成18年10月20日気道閉塞(へいそく)のため,急逝されました。ここに先生のご生前の功績を偲(しの)び,謹んで哀悼の意を表します。
先生は昭和7年に札幌市でお生まれになり,小学校,中学校,高校,大学とも札幌市で過ごされました。昭和29年3月北海道大学工学土木工学科を卒業し,同年4月運輸省に採用され,直ちに北海道開発局へ出向されました。昭和31年4月北海道大学工学部土木工学科講師となり,昭和33年4月助教授に昇任しました。昭和50年7月教授に昇任され,土木工学科交通計画学講座を担任し,平成7年3月北海道大学を停年退職されました。同年4月北海学園大学工学部土木工学科教授となり,平成9年4月から平成11年3月まで工学研究科長に就任し,平成14年3月同大学を停年退職されました。同年5月社団法人北海道開発技術センター会長に就任されました。
北海道大学においては交通計画学講座の設立に参画し,交通計画学,都市地域計画学,土木史学の創設,発展に貢献されました。それまで道路計画,鉄道計画などは個別に策定され,相互の連携は図られていませんでしたが,土木計画学の確立によってこれらが体系化され,総合化しました。先生は交通現象や都市活動を定性的かつ定量的に把握するモデルや理論の研究に尽力され,その成果は「土木計画数理」として出版されています。また街路除雪の経済効果推定の研究を行い,積雪寒冷地における除雪予算の重要性を明示し,除雪基準の改善に寄与しました。さらに道路ネットワークの理論構成に関する研究では,北海道のみならず全国の道路交通体系の整備理論を提案しました。
先生は札幌農学校の建学精神である「学理と実務の融合」を研究の基本理念とし,「過疎地域における公共交通機関の機能に関する研究」,「空港アクセス交通の機関分担モデルの構築」,「移動制約者を考慮した公共交通機関の機能と課題」,「多属性効用関数を用いた商業地評価モデルの構築」,「青函トンネルの有効利用方策」など実務の課題を分析し,交通計画学,都市計画学,地域計画学において新たな理論を構築しました。
この中でとくに注目されるのは「青函トンネルの有効利用方策」に関する研究であり,客観的な輸送実績データを分析し,航空利用者や物流事業者のニーズを適確に把握して有効利用方策を提言しました。青函トンネルの開業後,その輸送実績は先生の予測したように推移し,北海道と本州の地域間交流,産業振興,そして新しい北海道文化の創成に大きく貢献しています。この功績により平成6年10月北海道知事から北海道科学技術賞が,11月に日本地域学会功績賞が授与されました。
北海道大学においては北海道大学構内交通規制委員会,国際交流委員会の委員を歴任し,工学研究科においては大学院制度委員会委員長,改革推進委員会委員,さらに各種委員会において同科の運営に参画し,その発展に尽くしました。北海学園大学大学院工学研究科では平成9年4月1日から平成11年3月31日まで大学院工学研究科長として研究活動を指導し,私立大学高度化推進事業である文部省学術フロンティア推進事業の申請を行い,「積雪寒冷地における災害に強い都市環境モジュールの開発とシステムの構築:総括代表者五十嵐日出夫」の課題が採択されました。先生の研究分野はさらに拡大し,風土工学の創設メンバーとして活躍してきました。
土木学会においては理事,土木教育委員会委員長,土木史研究委員会委員長などを歴任し,平成15年5月22日土木学会名誉会員に推挙されました。さらに日本地域学会副会長,日本交通学会,日本都市計画学会,日本オペレーションリサーチ学会,日本商店街学会の理事,支部長を歴任しています。この中で特筆されることは,土木用語大辞典の編集委員長として1000人を超す執筆者の選出及び原稿依頼,23000語を超す用語解説の校閲を行ったことです。同大辞典はわが国における技術系用語辞典として高い評価を受けています。
日本都市計画学会には昭和47年に入会し,多くの論文を発表してきました。また評議会委員として活躍する一方,北海道内において会員の勧誘を積極的に行い,学会活動の活性化に貢献してきました。さらに北大工学部および北海学園大学工学部で長年にわたり都市計画学を講義し,北海道都市計画審議会,札幌市都市計画審議会,小樽市都市計画審議会,苫小牧市都市計画審議会の会長,副会長を歴任して地域社会に貢献したことにより平成14年11月20日,日本都市計画学会功績賞が授与されました。
五十嵐先生のこのような御功績に対し,この度,正四位瑞宝中綬賞が授与されました。ここに謹んでご冥福を心よりお祈り申し上げます。
(工学研究科・工学部) |