北の息吹  (4)

チョウノスケソウ (Dryas octopetala var. asiatica

 約1.8万年前の最終氷期以降の地球は急速に温暖化したが,約1.2-1.3万年前には寒の戻り(ヤンガードリアス期)があったことが分かっている。この用語が生まれたきっかけは,湖底堆積物中での本種(ドリアス属)の花粉の急増であり,典型的な寒冷種である本種の花粉が増えたのは,北半球を中心にした一次的寒冷化のためだとする学説に繋がった。和名は,立山で最初にこれを採取した山案内人の名前にちなむが,現在の立山では絶滅寸前のようである。しかし,大雪山と本州の八ヶ岳には大きな群落が健在なのはうれしい限りである。北極周辺やアルプスで普通に見られる基準種と比べて,日本の変種は幅広で丸みを帯びた葉が特徴であるが,花で区別するのは難しい。
理事・副学長 岡田 尚武

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