部局ニュース

農学研究院で市民公開・農学特別講演会を開催

 11月30日(金)午後1時30分より農学研究院大講堂において『ポプラ並木からバイオマスの利用まで』を共通テーマに,市民公開・農学特別講演会が開催されました。この講演会は,農学研究院・農学院・農学部,札幌農林学会及び札幌農学振興会が主催し,北方生物圏フィールド科学センター共催で毎年,行われています。1898(明治31)年発足の札幌農林学会の学術講演会を継承,発展させたもので,平成9年から市民公開されています。
 今年は,北大の重要なシンボルであるポプラを切り口に,森林資源の有効利用についてお二人に講演していただきました。本研究院の平井卓郎教授は「ポプラ並木から考える住の安全」と題し,木質構造の構造設計という専門分野から,最近話題になっている耐震設計と構造計算書の問題点を明解に説きました。試行錯誤の繰り返しから設計の基礎能力が錬磨されること,実生活における学習機会が年々減少してきており,設計者,現場技術者のキャッチボールの欠如が構造計算書問題の根本にあると結論されました。また,多くの市民の熱い思いと支援によって可能となった,平成16年の台風で倒れたポプラ並木の再生プロジェクトの経験から,巨大なクレーンでポプラをつり上げて,立て直す現場技術者の技と心意気の重要性,そして力学的なイマジネーションにもとづく木質構造設計法の開発が重要であることを強調されました。
 日本大学大学院教授の志水一允先生は「バイオアルコール−木質系バイオマスの成分利用」と題して,原油価格高騰の影響で注目されているバイオアルコールの生産について,木材化学への期待が高かった日本の戦後産業史をふまえて,講演されました。森林の未利用資源の有効利用として,シラカンバなどの広葉樹から砂糖,飼料,そしてエタノールを作る,あるいは医薬成分の抽出など,日本のバイオマス,バイオルネッサンス計画を主導してきた氏の幅広い研究成果を聴くことができました。「セルロースは鉄筋,リグニンはコンクリート」という平易な表現で,針葉樹と比較した広葉樹の資源利用の有利性を説明されました。「蒸煮爆砕」などの技術開発過程も興味深いものでした。
 講演後はバイオアルコールの経済性など,多くの質問がありました。コスト面からまだ改善すべき点があるものの,CO2削減のためのバイオエネルギー利用,米国のトウモロコシ,ブラジルの砂糖キビ絞滓を原料としたエタノール生産と違って食料生産に影響を与えないという,森林資源利用の大きな利点を理解できたのではないでしょうか。
 お二人とも,市民の方にも理解できる内容でご講演いただき,農学のもつ幅広さ,奥深さを認識する重要な機会となったように思えます。
講演する日本大学大学院 志水一允教授
講演する日本大学大学院 志水一允教授
(農学院・農学研究院・農学部)

前のページへ 目次へ 次のページへ