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サステナビリティ・ウィーク2008
−G8サミットラウンド開幕 6月23日〜7月11日開催
北海道大学サステナビリティ・ウィーク2008―G8サミットラウンド
 北海道大学は,G8北海道洞爺湖サミットに先駆け,6月23日から7月11日までの3週間を“Sustainabilityサステナビリティ Weeksウィーク 2008- G8 Summitサミット Roundラウンド”と名付け,サミット最大のテーマである地球温暖化対策を視野に,「持続可能な低炭素社会」の構築に向けて30以上の国際シンポジウムや市民講座を集中的に開催します。この3週間は,『持続可能な社会づくりに向けた研究・教育推進キャンペーン』と呼ぶべきものであり,2,000人以上の研究者・教育関係者・市民・学生が国内外から参加する,議論と情報発信の機会です。「持続可能な開発」に関連するこういった数多くの学問分野の研究者が世界中から集う学際的イベントとしては,世界に例のない規模の企画となっています。
 サステナビリティ・ウィーク2008開催期間中は,G8北海道洞爺湖サミットにおいて中心的に議論される予定の気候変動,地球温暖化,貧富格差などサステイナビリティ(持続可能性)に関する様々な研究成果の最新情報が発表され,議論されます。
http://sw2008.jp/

 今号から,ウィークに先立って行われる関連イベントも含めて,順次,開催レポートを掲載していきます。

開催レポート
「先住民族であり女性であること:自律と共生のジェンダー史」
 期 日:5月17日(土)13:00-16:30
 場 所:人文社会科学総合教育研究棟W103
 代表者:文学研究科 准教授 瀬名波栄潤


 まず,林忠行理事が本学におけるジェンダーワーキンググループの紹介並びに本シンポジウムの意義について話され,開会の挨拶としました。
 第I部では,司会の高橋彩 留学生センター准教授が問題提起を行い,3人の報告者を紹介。
 一人目は多原良子 北海道ウタリ協会札幌支部事務局次長による「複合差別の概念がアイヌ女性の主体的運動に,そしてエンパワーメント」で,アイヌ女性が,複合差別の概念を学び自分たちの置かれている状況を確認し,その結果を報告書としてまとめて出版し社会に問う活動をするまでを説明しました。
 二人目のアンエリス・ルアレン 地球環境科学研究院・日本学術振興会外国人特別研究員は「マイノリティ女性からマジョリティ女性へ:先住民族アイヌ女性と日本に於ける複合差別」と題して発表。先住民族女性の価値観を生かした方法で自分の解放を目指す様子とそれにまつわる障害物を報告し,先住民族としてのアイヌ女性の運動とエンパワーメントを分析し考察しました。
 三人目の佐藤円 大妻女子大学准教授は「アメリカ先住民史研究における女性とジェンダー」で,アメリカ先住民史研究における女性史研究やジェンダー史研究の現状について,研究史を踏まえながら紹介するとともに,この分野の研究が抱える問題点についても可能な限り指摘しました。
 第II部のコメントと全体討論では,コメンテーターの小野有五 地球環境科学研究院教授が報告者3名に言及しながら複合差別問題の複雑さを指摘,会場からの質疑にも対応しました。民族の問題とジェンダーの問題の優先性や合衆国におけるこれらの問題への先駆的対応などについて話は広がり,今後の諸問題解決への糸口を見つける機会となりました。
 最後は,ジェンダー史学会代表理事の長野ひろ子中央大学教授より閉会の挨拶があり,時宣を得たテーマであったとの総括とともに締めくくられました。本学におけるジェンダー研究教育の重要性を確認するシンポジウムであり今後その活躍が大いに期待される催しであったと言えます。
多原 北海道ウタリ協会札幌支部事務局次長(左)とルアレン研究員 佐藤円大妻女子大学准教授(左)と小野教授
多原 北海道ウタリ協会札幌支部事務局次長(左)とルアレン研究員 佐藤円大妻女子大学准教授(左)と小野教授

G8サミット記念日露青年交流企画
環境が結ぶ隣国−ロシア青年使節団との対話。
 期 日:5月22日(木)10:00-12:30
 場 所:学術交流会館 第一会議室
 代表者:スラブ研究センター 教授 松里公孝


 ロシア側から活発な質問があり,15分ほど終了時間を延長しました。特に人気があったのは亜熱帯の環境問題を扱った中村將琉球大学熱帯生物圏研究センター教授の報告で,珊瑚礁保護の具体的な取り組みやその報道のされ方(多くの日本人はこの問題を知っているのか?)について質問がありました。中村教授は環境のほかに現在行っている魚の性転換の研究について話をし,それも関心を集めました(魚だけでなく人間などにも応用できるかとの珍質問もありました)。懇親会でも,中村教授の周りにはロシア人が集まっていました。江淵直人低温科学研究所教授による報告も関心を持って聞かれ,オホーツクの環境の将来予測を尋ねる質問が出ました。
 外務省の飯島泰雅氏が「ロシア人の中には温暖化はロシアにとって悪くない(ロシアの農業が盛んになるとか,寒いところに住めるようになるとか)との考えがあるが,どうか」という挑発的な質問をしました。江淵教授は,短期的にはそうかもしれないが,長期的にはそうではないだろうと回答しました。飯島氏の質問は,狙い通りロシア側を触発し,「環境問題は地球全体の問題だ」との発言が2人から相次いでなされ,会場(ロシア人)から拍手が起きました。サミットに関連して日本側の環境面での取り組みを尋ねる質問もあり,ロシア人参加者の環境に対する関心は大きいと思われました。
 また,捕鯨をどう考えるかとの質問があり,上田宏 北方生物圏フィールド科学センター教授が,数を把握するための調査捕鯨であること,日本の食文化であること,昔は欧米も油を取るために捕鯨をしていたことなどを指摘し,ロシア側からそれ以上の追及はありませんでした。
 なお,この企画と夕方の懇親会との間には,ロシア側を数グループに分けた小樽・札幌のエクスカーションが行なわれ,スラブ研究センターの若手研究者がガイドを務めました。総じて雰囲気は友好的で,有意義な企画と評価してもらえたと思われます。懇親会でも,この会議を含めて日本側のhospitalityに感謝する発言が相次ぎました。また,後に,外務省のロシア交流室より丁寧な礼状が届きました。
白熱した議論 会場の様子
白熱した議論 会場の様子

第31回サイエンス・カフェ札幌
「君がいなくちゃだめなんだ 〜円山動物園と考える生物多様性〜」
 期 日:5月24日(土)14:00-15:30
 場 所:Sapporo55ビル1階インナーガーデン(紀伊国屋書店札幌本店正面入口前)
 代表者:科学技術コミュニケーター養成ユニット 杉山滋郎(理学研究院教授)

 
 札幌市民の憩いの場円山動物園は,希少動物や環境保全に取り組む役割も担っています。なかでも,希少動物の繁殖技術では,高い実績をもっており,ロシアと協働で,希少種であるオオワシを動物園で繁殖させ野性に返すプロジェクトも進行しています。
 第31回サイエンス・カフェでは,日本に数少ない鷹匠の資格を持つ飼育員の本田直也さんを円山動物園から,外来生物や希少種の生態について研究している吉田剛志さんを酪農学園大学からお招きしました。そして,お二人と一緒に,北海道における生物多様性の保全,保全のための動物園の役割,市民にできることを考えました。イベントは本田さんのお話から始まりました。現在全国の動物園で,動物の野生本来の行動を生かした飼育方法「エンリッチメント」が行われていますが,これは,飼育されている動物が「十分に健康である」ということが前提にされており,また,展示手法として注目されることから,様々な問題を抱えているということでした。動物園の動物は,野生と切り離され,一般に健康ではあり得ません。それを踏まえての,より動物の立場にたったエンリッチメントを目指さねばならないそうです。つぎに吉田さんからは,海外での希少動物の保全活動や,北海道の外来生物繁殖の実態などが話題提供されました。海外では,NPOが資金を集め,島を一つ丸ごと保全のために使っているというような事例が紹介されました。また,かわいいイメージのアライグマが,日本で繁殖し農作物を荒らしているという実例などから,人間も含めた生物の共存を考える上で,動物についてイメージではなく正しい知識をもって付き合わなくてはならないというお話がありました。お二人のお話のあとには,本田さんが連れてきたゲストの「アオダイショウ」や「カエル」も登場し,ゲストと参加者のふれあいの時間も設けられました。
 後半の質疑応答の時間には,「外来種の駆除」や「生物多様性のとらえ方」について,参加者から様々な意見や質問が寄せられ,それに対してゲストのお二人からは,「動物に人間の基準を当てはめて考えてはいけない」(本田さん),「なぜ生物多様性が大事かというのは価値観の問題でもある。僕は大切だと思っている」(吉田さん)というような,専門家として,個人としての真摯な発言がありました。参加者から,もっと話しがしたかったと声が寄せられる,あっという間の1時間半でした。
参加者からの質問を分類,紹介する ゲストの「ヘビ」を紹介する円山動物園飼育員 本田さん
参加者からの質問を分類,紹介する ゲストの「ヘビ」を紹介する円山動物園飼育員 本田さん
(サステナビリティ・ウィーク準備事務室)

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