訃報

名誉教授 こん どう 喜代きよ太郎たろう 氏(享年75歳)

名誉教授 近藤 喜代太郎(こんどうきよたろう) 氏(享年75歳)

 名誉教授 近藤 喜代太郎氏は平成20年9月30日午前1時49分ご逝去されました。ここに生前のご功績を偲び、謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は昭和8年5月24日,静岡市に生まれ,同34年3月東京大学医学部医学科を卒業,インターン終了後,同35年4月東京大学医学部第三内科研究生,同38年9月同大学助手に採用され,同40年4月新潟大学医学部附属病院神経内科講師となられました。同44年7月から同46年7月までアメリカ合衆国ミシガン大学およびメーヨクリニックに留学されました。その後,同52年4月同大学脳研究所神経内科助教授,同56年9月東京都神経科学総合研究所疫学研究室参事研究員,同56年10月同研究所臨床神経学研究部長を経て,同59年10月北海道大学医学部教授に就任,公衆衛生学講座を担当し,以来,約13年にわたり公衆衛生学の教育・研究に従事されました。
 同氏の研究業績は下記に大別されます。
 第一に,新潟水俣病についての研究。水俣病は戦後日本を震撼させた大事件ですが,昭和40年新潟でも4名の患者が発見された時点で阿賀野川流域の一斉調査を提案し,周到な調査基盤をつくり,患者側勝訴の端緒をつかみました。その後も故椿教授を援け,診療・調査・認定を進め,棄却を不服とする裁判で国側証人となり適正な法的決着に貢献されました。
 第二に,東京都において「先天異常モニタリング」を運営し,新生児を催奇源から守るシステムの構築。このシステムは,都立病院のすべての新生児の指定奇形の発生率を恒常的に監視し,その増加を早期に検知し,対策に連動させるもので,都はこの分野の国際情報機関に加盟し,情報の交換にも貢献されました。
 第三に,いくつかの厚生省特定疾患研究班員として,我国での神経難病の実態・頻度・危険要因・遺伝形式などを明らかにされました。その他に老年期痴呆(当時・現在は認知症)の危険要因と罹患しやすいライフスタイルを分析し,それを応用した「脳活性化訓練」を5年間行い,世界で最初に長期的有効性と予後規定要因を実証し,世界的評価を得ました。
 第四に,海外の研究者とともに神経疾患の予防対策の必要性を世界保健機構(WHO)に提言し,「神経学と公衆衛生計画」の立案に貢献されました。その他に世界神経学連合神経疫学研究委員会会長として神経疫学・予防神経学の分野で世界的推進者となりました。
 第五に,発展の著しい分子遺伝学を予防医学に導入するため,「生活習慣病」といわれる高血圧症・高脂血症・心筋梗塞・妊娠中毒症などの素因遺伝子を検出し,ライフスタイル要因との共同作用を分析することによって我国で初めてその予防的応用に成功されました。これらの研究業績に対し,平成4年北海道医師会賞・北海道知事賞が授与されました。
 学内にあっては,医学部学生,大学院医学研究科学生,研究生などの教育指導に広く携わり,また,組み換えDNA実験安全委員会委員,放送教育委員会委員,保健委員会委員,保健管理センター運営委員会委員などを歴任し,医学部および本学の運営に多大の功績を残されました。
 学外にあっては,日本公衆衛生学会員,日本衛生学会評議員,日本疫学会評議員,日本神経学会評議員,日本小児神経学会評議員,日本人類遺伝学会評議員,日本先天異常学会評議員,北海道公衆衛生学会常任理事として活躍し,世界神経学会神経疫学研究委員会委員長,平成7年にはWHO共催会議「神経学と公衆衛生」の会長,さらに,北海道特定疾患対策協議会委員,北海道公害審査会委員などを歴任し,学術の発展のみならず保健医療行政の発展に幅広く貢献されました。
 以上のように,同氏は国内外の数多くの学会・研究会で指導的立場にあり,国際的にも高く評価される多くの優れた研究業績を挙げ,学術の進歩発展に貢献するとともに,学生・後進の教育・育成に努めたその功績は誠に顕著であります。
 ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(医学研究科・医学部)


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