訃報

教授 やま もと かつ ゆき 氏(享年63歳)

教授 山本 克之(やまもと かつゆき) 氏(享年63歳)

 教授 山本克之氏は平成21年3月14日午後10時57分,膵ガンのため63歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和20年11月10日北海道に生まれ,昭和44年3月本学工学部電子工学科を卒業,修士・博士課程を経て昭和50年3月工学博士の学位を取得されました。その後,応用電気研究所助手,大学院工学研究科助教授を経て,平成3年4月同研究科教授に昇任されました。平成16年4月,大学院情報科学研究科新設に伴い同研究科生命人間情報科学専攻生体システム工学講座(生体計測工学研究室)を担当され,本年3月には,本学における34年間の長きにわたる教育と研究の締めくくりをされようという,退職を間近にしてのご逝去でした。
 教育面では,工学部においては「科学計測」「電磁気学」「応用電気回路」「生体工学概論」「システム工学基礎・概論」などを担当され,工学研究科,情報科学研究科においては「メディカルエレクトロニクス特論」「バイオセンシング特論」などの講義を担当されました。また,情報科学研究科の設置にあたっては,生命人間情報科学専攻の創設に中心的な役割を果たし,本学における生体医工学の教育・研究に大きな道筋をつけられました。研究科設置後も,教育担当副研究科長として教育・運営に尽力されました。
 研究面では,生体医工学の分野において,超音波を用いた血管弾性計測,近赤外光を用いた筋組織酸素濃度計測,超音波とマイクロバブルを用いた細胞内物質輸送,光と超音波を用いた生体イメージング,歯科バイオメカニクスの計測など,一貫して生体計測の新手法の開発とその応用に取り組まれ,先導的研究でこの分野の発展に大きく貢献されました。
 超音波を用いた血管弾性計測は,従来,体内の血管の局所的な硬さを非侵襲的に測定することが不可能であったものを,動脈壁の動きを体表から超音波を用いてミクロンオーダで検出することによって硬さを測定する手法を開発したもので,その成果は,動脈硬化症の早期診断法として内外の研究者によって広く応用されています。近赤外光を用いた筋組織酸素濃度計測は,皮下脂肪の影響を考慮した筋組織酸素濃度の定量計測法を確立し,さらに運動中の筋組織酸素濃度を画像化できる計測システムを開発したものであり,生体光学の分野で高い評価を受けています。超音波とマイクロバブルを用いた細胞内物質輸送は,体外から超音波を照射してミクロンオーダのマイクロバブルを崩壊させ特定部位の細胞に薬剤や遺伝子を導入する治療法に関する研究であり,従来観察困難であったマイクロバブルの動的挙動を世界に先駆けて観察し,診断装置に用いられているパルス超音波で細胞膜の穿孔現象が生じること,穿孔を受けた細胞膜がごく短時間に修復されることを実証し,パルス超音波を用いた細胞内物質輸送法の基礎を確立したもので,医用超音波の分野における先導的研究として高く評価されております。これらの業績によって,平成6年度に日本エム・イー学会論文賞(阪本賞)を,平成11年度と平成18年度には日本超音波医学会菊池賞(論文賞)を受賞されました。また,光と超音波による生体イメージングは,光イメージングの光拡散による限界を超音波変調光で克服しようとした研究であり,従来のシュリレーン法に代わる新たな音場可視化法を生み出しました。さらに,本学歯学部との共同研究も長年推進され,歯科バイオメカニクスの分野で歯槽骨リモデリングの計測など独創的な研究を展開されました。
 学外では,日本生体医工学会(旧日本エム・イー学会)の理事,北海道支部長,評議員,各種委員会委員を務めるとともに,論文誌(生体医工学,Frontiers in Medicine and Biology)の編集長を歴任されました。また,日本超音波医学会においても,理事,地方会運営委員長,評議員,各種委員会委員を務められ,これらの分野における学術の発展に大きな貢献をされました。さらに先生は,生体医工学の分野における最新の学術動向に精通し幅広い見識を備えておられることから,文部省学術審議会専門委員,日本学術振興会科学研究費委員会専門委員,通産省産業技術審議会専門委員,NEDO技術委員なども務められており,これらの功績を認められて日本学術会議連携会員に選任されておりました。
 以上のように先生は,生体医工学の教育と研究を通じて我が国と世界の生体医工学の研究の進展に多大なる貢献をされ,多くの優秀な人材を世に送り出して来られました。その先生の,あまりにも早いご逝去に痛恨の念を禁じ得ません。
 ここに謹んで先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(情報科学研究科)


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