学士学位記授与式 |
北海道大学連合同窓会会長
JFEホールディングス株式会社代表取締役社長 |
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數 土 文 夫 |
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卒業生の皆さんおめでとうございます。
北海道大学はその前身の札幌農学校以来,現在まで118,765名の卒業生を世に送り出してきました。本日,私はその同窓生を代表して,平成21年度学士学位記授与式に臨まれた2,504名の皆さんに,お祝いを申し上げます。
アメリカをはじめとする世界の大学では,学士学位記授与式のことを“Graduation”ではなくて“Commencement”と言います。“Commencement”の原義は,親から独立して世に出る,自立の旅に出る,すなわち「出発」という意味です。
今日まで,皆さんはご両親,ご家族,また国家からの経済的・財政的支援などを受けてきました。だからこそ,学位記授与式を終えたならば,自分の生活基盤を確立しながら,国家に貢献する人材になってもらいたいと思います。
急に国家に貢献せよと言われても戸惑うかもしれませんが,毎年多くの新社会人,新入社員を見ていると,それほど難しいことではないと思います。
国家に貢献する人材になるために,一つ目に必要な能力は,「新しい職務に夢中になれるという能力」です。
二つ目に必要なのは,皆さんがこれまで経験したことがない難しい局面,つまり人間関係やコミュニケーションの難しさに遭遇した時に,閉じ籠もることなく,また自分を主張することなく,「相手の長所に敬意を表し,好意を持てるという能力」です。
仕事に夢中になれる能力と,相手に好意を持てる能力。この二つの能力に加えて,人生に大変重要なのは,夢,希望,志を持つことです。志の無い人生はなんと寂しいものか。志のある人生はなんと輝かしいものか。我がクラーク博士が札幌農学校の学生と別れる際に,「志」と言ったことはここに原点があると思っています。
話しは変わって,2500年前,我が国の邪馬台国の卑弥呼の時代から遙か昔の700年前,古代中国の春秋戦国時代に大変な思想家が現れました−孔子です。孔子はたくさんの弟子や学生を育成し,その旅立ち,“Commencement”の際に非常に重要なことを本当に簡潔な三つの文章で教えて送り出しています。
論語の「学而第一」にそれが書いてあります。
「学びて時に之(これ)を習う,亦説(またよろこ)ばしからずや」
学校で勉強したことを実践しよう。あるいは人生において勉強したことを実践しよう。社会に出て実践するには勇気を持って実践することが重要です。
「朋有り,遠方より来たる,亦楽しからずや」
人間は旅立ちの時に自立しなくてはならないけれど,一人で生きていける訳ではありません。友達の重要性とありがたみを孔子は2500年前に述べているのです。
「人知らずして慍(うら)みず,亦君子ならずや」
人生は努力だ。努力だ。また努力だ。
自分が地道に努力していること,あるいは自分が能力のあることを周りの人が認めてくれない。だけどそれを恨むな。恨む暇があったら更に研鑽に励めと言っているのです。
本日平成22年3月25日,この学位記授与式“Commencement”が皆さんの人生における素晴らしい起点となることを心から祈念して祝辞といたします。 |
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