全学ニュース

総 長 告 辞
入 学 式
総長 佐 伯   浩

 新入生の皆さん,北海道大学へのご入学おめでとうございます。北海道大学の教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。今日から,北海道大学で充実した学生生活を送られることを強く願っています。また,今日まで皆さんの勉学と生活を支援してこられたご家族や関係者の方々に対して,深く敬意を表します。今後とも,皆様のお子さんを温かく見守り,励まして下さいますよう,お願い申し上げます。
 さて,今年の本学への入学者は2,570名です。そのうち男子学生は1,858 名,女子学生は712名です。入学者の中には,留学生21名が含まれています。出身地を見ますと,道内が1,242名,道外が1,328名で,道外出身者が86名多くなっています。全国から集まった新入生の皆さんは,この日本一美しいキャンパスを有する北海道大学で互いに切磋琢磨しながら,勉学に,そして課外活動にも励んでください。これからの北海道大学の将来を託すことのできる人物になるよう期待しています。
 さて,ここで北海道大学の全体像を簡単にお話ししたいと思います。
 本学は1876年に札幌農学校として創立され,日本で最初に学士の学位を出した学校です。その後,東北帝国大学農科大学,北海道帝国大学,北海道大学と変わり,2004年4月,現在の国立大学法人北海道大学となり,135年の歴史を重ねてまいりました。現在,国立大学の中で最も多い12の学部を有し,18の学院・研究科を持っています。加えて,我が国の研究拠点と認定された7つの研究所・研究センターを有するとともに,22の学内共同教育研究センターがあります。教員数はおよそ2,100名,技術系・事務系職員が約1,800名で,合わせて約3,900名の教職員が勤務し,皆さんの指導や支援に携わっています。学生総数は18,300名で,そのうち学部生は約11,800名,大学院生等は6,500名です。この中には,84カ国と一つの地域からの留学生1,193名が含まれています。また,本学は札幌と函館のキャンパスの他に,和歌山県と北海道内に合わせて9カ所の研究林およそ650平方キロメートル,道内6カ所に臨海・臨湖等の実験所,その他日高地方に牧場等の施設も有しています。また,水産科学研究院では2隻の船舶も所有しています。このように,現在注目されている,持続可能な開発に関する基礎的な研究や実習を行う施設が揃っているのも本学の特徴の一つです。これらの施設や船舶は,他の研究機関や大学との共同研究にも活用され,本学の全学教育の中のフィールド体験型の科目にも利用されています。本学は皆さんが持っている能力を開花させ,磨くことができるよう,施設の充実やキャンパスの環境整備に引き続き努力していきたいと考えています。
 さて,皆さんは受験勉強から解放され,これから始まる大学生活に対してそれぞれ夢を持っていることと思います。その夢の実現も大切でしょう。夢は人間の成長に合わせて,より現実的なものに近づくものです。ですから,在学中,自分の将来の生き方についてもしっかり考えながら,学んでいただきたいと思います。
 本学は教育研究の理念として,「フロンティア精神」「国際性の涵養」「全人教育」そして「実学の重視」の4つを掲げています。これは,本学創立以来135年の歴史の中で育まれてきた教育研究の基本姿勢をもとにしています。これらの理念のもと,本学は皆さんを将来の日本をあるいは世界を,勇気を持ってリードしていくような人材に育てることを意図しています。
 この3月,私は本学を巣立った2,500名の学生の皆さんに,二つのことをお願いしました。皆さんにも同じお願いをします。
 一つは,社会に出てもグローバリズムの視点を持って学び続けること,二つ目は常に高い倫理観を持って行動して欲しいということです。
 社会や経済のグローバル化が進み,そのような社会で生き抜くためには,我々自身が常にグローバリズムの視点を持って学び,行動することが必要です。諸外国の文化や考え方を理解し,そこに住む人々とコミュニケーションを持つためには,外国語力の向上が必要です。同時に,我々の国,日本の歴史や文化をよく理解し,それらをわかりやすく説明する能力も重要です。常に世界の情報に接し,その変化に注意を払う必要があります。全学教育や専門教育を受けるにあたっては,自ら積極的に学ぶ意欲を持ち,身につけ,自分のものにし,自らの考えや主張にまで高めて欲しいものです。「自学自習」の習慣を学生時代に身につけ,一生継続することこそが肝要です。
 二つ目の,高い倫理観を持って行動することの必要性についてお話します。
 現在,我が国の経済状況は良くありません。また,格差が拡大しつつあるとも言われていますが,世界的にみて,我が国が豊かさを失ったわけではありません。しかし,将来に対していくつもの不安を持たざるを得ない社会状況の変化を強く感じます。我々日本人が家族や他人への思いやりを失いつつあるのではないかと心配になるようなニュースが多すぎます。また,経済犯罪の増加や,利益を上げるためには手段を選ばないといった企業をみると,企業の持つべき倫理がどうなっているのか不安になります。政治の世界でも政治倫理にかかわる問題が起きていて,政治不信を招いています。社会をリードし,国民に対して,身を持って規範を示すべき立場の人々が,私利私欲に走る姿をみる時,我が国の将来に不安を持たずにはおれません。モラルや倫理観の欠如が結果的に社会不安を引き起こし,安全,安心な社会の実現を阻みます。
 私が最も恐れるのは,皆さんのような若い人達が,将来に対する夢や希望を持てなくなることです。そうなったら,日本の将来は本当に暗くなります。
 今から135年前,札幌農学校開設時に,学内の校則を作ったらどうかとの意見に対してクラーク博士は,“Be gentlemen”で充分と言ったそうです。今の時代ですと“Be ladies! Be gentlemen!” “淑女たれ!紳士たれ!”というところでしょうか。本学で学ぶ皆さんは,日常のマナーをしっかり守ることは当然のこと。より高い倫理観を持って,日本の社会をリードするような人材を目指し,成長することを強く望みます。皆さん一人一人の日常の小さな努力の積み重ねが,日本の将来を良い方向に変える力になります。日本が技術力や経済力で世界から信頼されることも重要ですが,文化や,国民の品格や人格といった人間性の面で尊敬されるようになることの方がもっと重要ではないでしょうか。どうか,諦めることをせず根気強く,皆さんの学びと智慧とで道を切り開いていってください。
 ご存知のように,21世紀は知識基盤型社会と言われ,大学の役割も極めて重要となっています。北海道大学も,世界標準の人材育成システムの構築と,世界により開かれた大学を目指します。その一環として,本学は本年度から,学生の協定大学への留学を積極的に支援することにしています。皆さんも是非挑戦し,世界へ向けて羽ばたいて下さい。そして,グローバリズムの視点を持った国際人に育って欲しいと思います。
 本学は12の学部で構成される総合大学です。学部の壁を越えた学生間交流を可能とする課外活動も重要です。時間を上手に配分し,充実した学生生活を送って下さい。
 この伝統ある北海道大学に入学された皆さんが,卒業される時には,多くのかけがえのない友人に恵まれ,社会が必要とする幅広い教養と専門的知識をもち,加えて,国際性と高い倫理観を持った人物に成長していることを御祈念申し上げ,入学式の告辞を結びます。

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