宮浦憲夫特任教授が「アリールボロン酸を用いる触媒的炭素−炭素結合形成法の研究」により,平成22年度文部科学大臣表彰−科学技術賞を受賞され,4月13日(火)新宿の京王プラザホテルおいて表彰式が挙行されました。本賞は,日本の研究者にとって極めて名誉あるものです。受賞にあたっての同氏の功績等を紹介します。 |
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(総務部広報課) |
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同氏は,2002(平成14)年にクロスカップリング反応30周年を記念した"Post OMCOS Symposium: Thirty Years of the Cross-Coupling Reactions"を玉尾皓平独立行政法人理化学研究所基幹研究所長,檜山為次郎京都大学教授と京都で開催しました。我が国で開発され,多くの人名反応を生み出した触媒的有機合成法の記念すべきシンポジウムです。この中で同氏らが1979年に報告した有機ボロン酸のクロスカップリング反応はSuzuki couplingあるいはSuzuki-Miyaura coupling反応として世界的に認知され,有機合成の広範な分野で利用されるようになりました。最も利用されているのがアリールボロン酸あるいはそのエステル誘導体のカップリング反応であり,ビアリール化合物の合成で6,000件(Scifinder 2008)以上の論文や特許が報告されるに至りました。ボロン酸は空気や水に安定で取扱いやすく実験室のみならず工業的製造法に適していること,官能基共存性に優れ保護脱保護の操作が軽減できること,多くの触媒反応で高い信頼性を示すことなどが主な理由です。
また,これに必要となるボロン酸誘導体は内外試薬メーカーから450種類以上が市販されるに至っています。主な用途は,医薬,農薬,機能材料の探索研究や導電性高分子,LEDなど分子設計に基づくπ-共役系高分子材料の開発です。
また,米国Merckにおける血圧降下薬losartan,独国BASF社における殺菌剤boscalid,またMerckやチッソ化学における液晶など工業的スケールでの製造にも利用されました。
ボロン酸には100年以上の歴史があり,1800年代後半にドイツを中心としたヨーロッパで多くの重要な発見がなされています。安定で取扱い易いものの化学的には極めて不活性で利用価値が少なかったこと,また顕著な生物活性を持たないことから過去大きく注目されることはありませんでしたが,非金属元素であるホウ素を使うことにより金属元素が抱えるリスクを大幅に軽減したもの作りが達成できました。今後も芳香族系化合物のみならず様々な反応開発に利用されると期待されます。 |
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略 歴 等 |
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昭和 |
44 |
年 |
3 |
月 |
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北海道大学工学部合成化学工学科卒業 |
昭和 |
46 |
年 |
3 |
月 |
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北海道大学大学院工学研究科修士課程合成化学工学専攻修了 |
昭和 |
46 |
年 |
4 |
月 |
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北海道大学工学部助手 |
昭和 |
51 |
年 |
12 |
月 |
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工学博士(北海道大学) |
昭和 |
56 |
年 |
8 |
月 |
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米国インデイアナ大学博士研究員 |
平成 |
2 |
年 |
1 |
月 |
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北海道大学工学部助教授 |
平成 |
6 |
年 |
4 |
月 |
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北海道大学工学部教授 |
平成 |
9 |
年 |
4 |
月 |
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北海道大学大学院工学研究科教授 |
平成 |
22 |
年 |
3 |
月 |
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定年退職 |
平成 |
22 |
年 |
4 |
月 |
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北海道大学大学院工学研究院特任教授 |
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(工学院・工学研究院・工学部) |
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