名誉教授 畠稔氏は,平成22年10月22日午前9時10分,肺癌のため78歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,昭和7年6月4日,東京に生まれ,昭和30年3月,東京大学文学部東洋史学科を卒業,同年4月,同大学大学院人文科学研究科修士課程(東洋史学専攻)に入学,同32年3月,同課程を修了,同年4月,同大学大学院博士課程(東洋史学専攻)に進学,昭和39年3月,同課程単位取得退学の後,同年5月,北海道大学文学部助教授(史学科東洋史第二講座)に着任され,同53年8月,教授に昇進,そして平成8月3月,停年により退職されました。
この間,同氏は昭和50年3月から翌年3月にかけて,文部省在外研究員として連合王国外務・連邦関係省旧インド省図書・文書館及び国立公文書館などで「植民地時代における南アジア社会経済史」の研究に従事されました。また,昭和63年から平成2年までの2年間にわたり文学部長,評議員及び大学院文学研究科長の要職を務められ,特に文学部長在任中には学部改革構想具体化の先鞭をつけるなど,本学ならびに文学部の管理運営の中枢に参画されるとともに,各種委員会委員を数多く務められ,本学の発展・充実に多大の貢献をされました。
同氏は,北海道大学に着任されて以来,文学部の専門教育課程においては東洋史学,東洋史学演習を,大学院文学研究科においては東洋史学特殊講義,南アジア史演習,東洋史学特殊演習を担当されました。これらの講義・演習ではご専門のインドやスリランカのみならず,インドネシアなど東南アジア諸国・諸地域の政治・経済・社会・文化をも積極的に取り上げ,幅広い教育活動を展開されました。更に,学部生および大学院生に対する論文指導をとおして数多くの東洋史学研究者を育成するとともに,自らも多数の研究成果を発表し,教育研究に尽力されました。
同氏の東洋史学における研究領域はインド・スリランカを中心とした南アジア史であり,この分野ではわが国における数少ない開拓者の一人といっても過言ではありません。なかでもご専門は植民地時代におけるインドの社会経済史で,18世紀から19世紀にかけてのインドの土地制度・税務行政制度からスリランカの社会制度に及ぶ数多くの業績を残されました。その研究の特徴はそれまでのイギリス人による研究を批判的に継承し,一次史料に基づくインド自体の社会経済史の構築に努められ,新しいインド近代史研究の地平を切り開かれた点にあります。また,わが国では研究が手薄であったイギリス領セイロン(スリランカ)の歴史についても精力的に研究を進められ,スリランカ史の新たな研究領域を提示されました。これらの優れた研究業績はご専門の南アジア史という枠を超えて,関連領域の研究発展にも大きな影響を与えております。
同氏はまた学会活動においても指導的な役割を演じられました。昭和63年に日本南アジア学会の創立に関わり,理事を務められたほか,平成元年から同7年にかけて北大史学会の会長として,本学のみならず北海道における歴史学の発展と後進の育成に大きな足跡を残されました。
ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
(文学研究科・文学部)
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