総長再任挨拶


総長 佐 伯  浩

総長 佐伯  浩
 平成16年4月1日,国立大学は法人化され,昨年の3月末に第1期の中期目標期間の6年を終了し,4月から新たに第2期に入りました。第1期につきましては,中期目標を各年度計画に落とし込み,年度ごとに達成状況を確認して,目標達成に全力を挙げてまいりました。この間の本学全教職員の皆様の努力に心より感謝いたします。
 私は総長として,第1期目の後半の3年間と第2期目の初年度の計4年間を,第1期中期目標の達成と,第2期中期目標設定に努力してまいりました。第2期中期目標の設定に当たりましては,20を越える部局を訪問し,その内容の説明もしてまいりました。第2期中期目標の達成を確実にするためにも,もう一期2年間,総長としての職務を務めさせていただきたく,皆様方の御支援をお願い申し上げていましたが,昨年12月の総長選考会議において,全委員から再任可の決定をいただきました。今年4月1日から2年間,本学の発展のために皆さんとともに努力していきたいと思っています。
 国立大学の法人化は,我が国の行財政改革の一環として実施されたため,国からの運営費交付金の毎年1%削減に加えて,大学病院の毎年2%の経営改善係数の導入による負担等,国立大学法人の財政面の状況は,年々厳しさを増してきました。本学では,法人化当初の平成16年度の運営費交付金は431億だったものが,第1期最終年の平成21年度では378億円となり,6年間で53億円減収しました。このような厳しい状況下で,受託研究,奨学寄附金,グローバルCOEや大学改革推進経費等の補助金等の増と,病院の努力による収入増,それに教職員の削減や,物品の共同購入の拡大等により,本学の経常収益は,平成16年度と比べ平成21年度では51億円増収となりました。これは,運営費交付金の減額を全教職員の努力と知恵で補ったことに由るもので,全教職員の方々に深く感謝いたします。
 また,目的積立金の使途につきましても,学生食堂の拡張・充実,第1・第2体育館の改築と全天候型体育館の新設等,学生の修学環境の整備,動物実験施設整備等の研究環境整備,それに留学生のための寮の新設といった国際化への対応等,効果的に活用することができました。しかし,平成24年度以降については,我が国の財政状況の厳しさと税収の伸びに期待できないこと,さらに,今回の大震災と原子力発電所の事故により,極めて不透明な状況となっています。
 本学が世界の教育研究の拠点としての存在を今後も確かなものとするためにも,財政基盤の強化が重要であります。しかし,運営費交付金の減額は,国立大学法人の財政基盤そのものを危うくすると言わざるを得ません。
 国立大学法人は国民から強い支持を受ける必要がありますし,そのためには国立大学の特徴を常に国民に向けてPRすることも重要となっています。私自身も,道内の国立7大学の学長共々,あるいは国立7大学および早稲田,慶応義塾両大学の学長が共に,我が国の高等教育への予算が諸外国に比べて極めて少ないことと,科学技術の振興こそが,資源が乏しく国土も狭隘な我が国の将来を確かなものにすることを,繰り返し表明してきました。これからも国立大学法人の役割とその存在意義について,国民の理解を得る努力を続けなければなりません。
 人類が持続的な発展を続けるためには,限られた資源を有効に活用すると共に,地球規模の環境の保全と地球への環境負荷の軽減,自然災害の防止等による安全で豊かな社会の創出,さらには人類の健康増進や,人類普遍の真理の探究が重要です。高等教育を担う大学の使命は,教育と研究を通じて真理の探究と知識を創造し,加えて,上述した人類共通の課題の解決に向けて努力すること,そして次の世代を担う優秀な人材を養成することにあります。これらを実現するために,北海道大学は,大学自治の基本要素である学問の自由を基本とした知の創造を通じて,人類に貢献することに努めると共に,国立大学法人として国民からの付託に伴う責務に対して,自らの責任において積極的に応えなければならないと考えます。これからは,将来を見据えた教育研究体制の構築,並びに若手研究者の育成の場としての環境の整備が非常に重要になってきます。そのためには先ず,大学としての展望あるいは将来構想を明確にし,それに基づいて中期目標を設定し,実行するという手法に変えなければなりません。私は,これらを具現化する学内体制の構築を図り,大学改革を遂行する必要性を痛感しております。
 法人化して7年が過ぎました。本来,大学で最高水準の教育研究を維持し発展させるためには,教職員・学生が教育研究に没頭できる“静かな環境”が確保されなければなりません。しかし,第1期においては,中期目標達成の目途を早期につけるため,教職員一同,息を切って走ってきたようにも思われます。20世紀の学問体系の細分化から,21世紀に求められている学問間の融合化,学際的な課題への取り組み,萌芽的分野や未踏分野の開拓と挑戦を確かなものにするためには,教員が教育研究に没頭できる,静かな環境づくりが必要ですし,事務職員にとっては,能力向上の研修機会の拡大等が必要です。現在進行中の第2期に入ってからは,比較的静かな環境が維持されているようです。
 また,真に学生のための教育を実施するには,教員個個人の努力が必要です。全学教育・学部専門教育においては,多様な能力の学生と接しますし,大学院においては,コースワークの充実と共に,研究室での院生との討論等,十分に接触できる時間が必要です。大学にとっても,新たな改革とそれに向け不断の努力は常に必要です。一方,性急な改革は,教職員の負担を著しく増大させるだけではなく,組織を整合性がなく無駄の多いものにする恐れもあります。私は,教職員一人一人の能力を最大限発揮できるような環境づくりが大事であり,そのための改革の優先度を明確にし,優先度の高いものから順に取り組んでいく必要があると考えます。
 人材育成を第一の目的とする大学にとって,教育は極めて重要な柱であります。学士課程及び大学院の質の保証と厳格な成績評価,単位の実質化は教育の国際化の基本であります。研究につきましては,総長,研究戦略室のリーダーシップの下,21世紀COE,グローバルCOE,科学技術振興調整費等について大きな成果を挙げてきました。しかし,本学が世界的な研究教育拠点へと成長するためには,研究体制の弾力化と再編を早期に実施し,教職員,大学院生一丸となった努力が必要と思われます。本学には附置研究所が3つ,全国共同利用施設(センター)が3つあります。他の有力大学に比べ決して多くありませんし,規模も大きくありません。しかし,これらの研究所・センターは創成研究機構と共に,それぞれのミッションに従って本学の研究を先導しており,今後もその成果が期待されます。これらの研究組織の強化は重要と考えます。また,教育あるいは研究の面で高い評価を得た人に対しては,客観的な評価に基づいた表彰制度を充実したいと考えています。努力している人が報われるようなシステムづくりをしたいと思っています。
 大学の基本的使命である教育や人材育成は,その公共性と社会的責任を十分認識して行われています。それらに加え,本学が今後取り組まなければならない最も重要な課題は,教育効果の国際的適用性を確保するためのシステムの構築とその強化です。このことは,研究戦略や国際連携,施設・環境整備あるいは大学運営に大きな影響を及ぼし,その結果として,世界の中の北海道大学という観点から,大学を活性化させることが期待できます。私共の新たな活動の推進が望まれます。
 本学の歴史的背景,大学の規模,教育研究理念,そして我が国の基幹総合大学としての位置付けから,特に,@世界的研究・教育拠点として,A高度専門職業人養成を行う教育機関として,そしてB地域貢献や産学官連携および国際交流等の社会貢献を果たす大学として,国の内外から高く評価される大学を目指さねばなりません。以上のことを達成するため,第2期中期目標・中期計画においては,本学の全ての活動を包括する基本目標として,1)世界水準の人材育成システムの確立,2)世界に開かれた大学の実現,3)世界水準の知の創造と活用,そして4)大学経営の基盤強化,の4つを設定しました。
 現在,世界の高等教育界で起こっている高等教育の各種基準の統一化,それに伴う教員・学生の国境を越えた流動化の現状を見たときに,「世界水準の人材育成システムの確立」は特に重要であります。今,我々がこの取り組みを躊躇するならば,アジア圏域の優秀な留学生の関心を引くことが出来なくなるだけではなく,近い将来,我が国の優秀な学生に,将来への希望を与えることも不可能になる恐れがあります。自国の高校生や大学生が,外国の大学へ入学するといった状況は,EU諸国ではすでに起こり始めています。
 この新しい人材育成システムが確立され,さらに奨学金や宿泊施設の充実,加えて外国語による教育が始まると,本学は「世界に開かれた大学」の実現の可能性も高まることになります。私共は,他の大学に先駆けて,世界水準の人材育成システムの構築に,全力で努力する必要があります。また,世界に開かれた大学の実現に当たっては,海外の優秀な留学生を,学部段階から受け入れる必要もありますし,同時に本学の日本人学生についても,積極的に海外の大学で学べるよう支援を行うべきと思っています。これまで,留学生を受け入れた教員の負担は,大変大きいものでした。教員の負担軽減を図るべく,この度,国際本部を設立しました。今後,留学生を受け入れる先生方は,留学生の教育と研究の面のみに専念できますよう,さらに充実させる所存です。この他,本年度から,活力ある事務組織の実現に向けて,積極的に事務組織の改革に努めていきたいと思っています。
 さて,昨年のノーベル化学賞を,本学の名誉教授である,鈴木章先生が受賞されました。北海道大学に関わる全ての人々にとって誇りであり,同時に北大の教育研究レベルの高さを世界に示したわけであります。私共は,このエルムの学園,北大から第2,第3の世界トップレベルの研究者を輩出するよう努力していく決意を新たにしております。社会で信頼される人材の育成と,本学からの世界トップレベルの研究成果の発信は,本学が世界レベルの国際的な大学であることを世に知らしめるばかりでなく,本学の更なる国際化の起爆剤となることを確信しております。私はこれからの2年間を,皆さん方の協力を得ながら,北海道大学のさらなる発展に向けて努力していきたいと思っています。
 

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