名誉教授桐山修八氏は10月8日午前7時35分,肺がんのため81歳で逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,昭和5年5月17日,静岡県磐田市に生まれ,昭和28年3月岐阜薬科大学製造薬学科を卒業,同年4月より日本大学医学部副手として勤務されました。その後,昭和57年4月北海道大学農学部食品栄養学研究室の教授として赴任されました。平成6年3月北海道大学を停年退職し,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。退職後は,大妻女子大学教授,静岡県立大学客員教授などを務められ,研究活動を続けられました。最近では,「ルミナコイドラボ」を立ち上げられ,後輩の研究指導などにも携わっておられました。
桐山先生の研究活動は,基礎栄養学,あるいは実験栄養学とも言えるもので,実験動物であるラット(白ネズミ)を使って,種々の食品成分を用いた試験食を作って食べさせ,生体への影響をみることを基本とした研究です。今ではこの分野は細胞や組織を使う試験も多くなっていますが,この実験動物に「食べさせる」は今も研究室の基本となっています。特に,使う食品成分や試験食は自ら調製することが多く,研究室名の「食品栄養学」を体現した研究スタイルとなっています。このような研究は,北海道大学農学部にはそれまで無かったもので,100年にも及ぶ長い研究室の歴史の中で,桐山先生が来られたことは新たなスタートであったと思います。今では北海道の多くの大学で,後輩たちが様々に発展させて栄養学の研究を続けており,北海道に農学系の栄養学を根付かせたと言えます。
研究の主要なテーマは食物繊維であり,今ではこの食品成分は,糖尿病や動脈硬化症などの種々の生活習慣病の発症に係わるなど,その健康維持作用はよく知られていますが,桐山先生は世界的にも,食物繊維の生理作用研究の先駆的研究者として知られています。今の日本における食物繊維の定義は,「ヒトの消化酵素で消化されない食品成分の総体」でありこの定義を提唱されたのも,桐山先生です。食物繊維は,血清コレステロールを下げたり,大腸がん発症を抑制したりしますが,桐山先生はこれらの作用メカニズムを独特の手法と発想で探求されました。特にユニークな研究としては,ラットに難吸収の低分子成分を大量に摂取させると,重度の下痢を引き起こして死亡します。しかし,かさ高い不溶性の食物繊維を一緒に摂取させると,下痢はほぼ完全に回復してラットも正常に成長するという,劇的な効果が食物繊維にあることを発見されました。退職される前年となります平成5年8月には,海外からも研究者を招聘して,「食物繊維とオリゴ糖─その生理機能と生産」と銘打った,大規模なシンポジウムを学術交流会館で主催されました。
以上のように桐山先生は,日本の食物繊維研究の先駆者として多くの業績を残されました。北大時代には,難消化性のペプチド研究においてもユニークな成果をあげておられます。これも,「ルミナコイド」に包含される食品成分となります。桐山先生は,生前叙勲を固辞されました。これもその人柄を象徴しているように思います。ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
(農学院・農学研究院・農学部)
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