本賞は，日本の研究者にとって極めて名誉あるものです。各氏の功績と略歴を紹介します。
（総務企画部広報課）
- 理学研究院 准教授
- 角五 彰 （かくご あきら） 氏
功績等
生体分子モーター（アクチン／ミオシンや微小管／キネシン系など）は，ATP※１の化学エネルギーを効率よく運動エネルギーに変換するソフトな分子機械です。これらの分子機械を利用した運動素子の研究開発が各国で盛んに行われています。しかし，その多くは生体分子モーターの１分子的な機能を利用するに留まり，集積により力や速度の増幅を目指すという研究報告例はほとんどありませんでした。例えば，筋肉のような力強くダイナミックな運動は，アクチン／ミオシンが高次の階層構造を有することで初めて実現されます。構成要素の単なる総和とは異なるこのような機能特性は「創発」と呼ばれ，生命機能最大の特徴でもあります。このような生体の秩序構造は構成要素が熱力学的原理に従い平衡系，非平衡系の枠を横断しながら自ら組み上がるものです。こうした視点から，同氏は生体分子モーターの受動的自己組織化法－エネルギー供給のない平衡系における要素集積法を確立し，ナノからミリメートルオーダーまでのサイズ的なスケールアップを実現しました。さらに，能動的自己組織化法－エネルギー（ATP）供給のある非平衡系での要素集積法も確立し，バンドル，リング，ネットワークなど，多彩な駆動ユニットの創製に成功しました。これら駆動ユニットには，並進，回転，アメーバ状運動など多様な運動モードが発現し，さらに運動速度，運動直進性，運動持続性などにおいて１分子機能の総和では理解できない機能が見出されています。これら一連の研究成果は，国際的にも非常に高く評価されており，このような非線形的な機能の発現機構を解明してくことで生体動力システムの持つ階層構造の役割や運動の協同性について新しい知見が与えられると期待されています。
また，ATPは生命体が創りだす再生可能なエネルギー源でもあります。将来的には生理的環境下で機能するアクチュエータ※２としての応用展開も期待されます。
※１）ATP：Adenosine Triphosphateの略で，生体分子モーターのエネルギー源となる物。
※２）アクチュエータ：入力されたエネルギーを機械的な運動に変換する装置の総称。
略 歴
| 平成10年３月 | 北海道大学水産学部水産化学科卒業 | |
| 平成12年３月 | 北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻修士課程修了 | |
| 平成15年３月 | 北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻博士後期課程修了 | |
| 平成15年４月 | 北海道大学大学院理学研究科科学技術支援員 | |
| 平成16年10月 | 北海道大学大学院理学研究科助手 | |
| 平成19年４月 | 北海道大学大学院理学研究科助教 | |
| 平成23年５月 | 北海道大学大学院理学研究院准教授 |
（理学院・理学研究院・理学部）
- 工学研究院 助教
- 白﨑 伸隆 （しらさき のぶたか） 氏
功績等
感染事例が世界中で増加し，社会的な注目を集めているノロウイルスは，未だ効率的な培養法が確立されていないことから，培養可能な水系感染症ウイルスの浄水処理性評価に広く用いられる添加実験を行うことが極めて困難であり，培養可能なウイルスに比べて浄水処理性に関する知見がほとんど得られていないのが現状です。そのため，培養不可能なノロウイルス等を含めた水系感染症ウイルスを，高度かつ高効率に処理可能とする浄水処理システムは未だ確立されていない状況にあります。このような中，同氏は，ノロウイルス粒子の物理的な浄水処理性を，遺伝子組換え技術・バキュロウイルスベクター・カイコ細胞を併用したタンパク質発現法により作製したノロウイルス外套タンパク粒子を用いるという全く新しいアプローチにより，培養法の確立を待つことなく詳細に評価しました。野生のノロウイルス粒子と同等の表面構造（抗原性）・粒子径を有するノロウイルス外套タンパク粒子を用いることにより，ノロウイルス粒子の表面電位等の基本特性を明らかにしたのみならず，凝集処理，砂ろ過処理，膜ろ過処理といった処理過程におけるノロウイルス粒子の消長を，世界に先駆けて明らかにしました。
また，新規のウイルス処理システムとして，省エネルギー化・省スペース化が期待できるスタティックミキサーを用いたインライン凝集処理と，耐圧性・耐薬品性の点から注目を集めているモノリス型セラミック膜を用いた精密膜ろ過処理を組み合わせたインライン凝集‐精密膜ろ過処理を提案しました。この処理を用いることにより，６log（99. 9999％）以上の高いウイルス除去率が得られることを示したのみならず，処理過程におけるウイルス消長メカニズムを解明し，アルミニウム系凝集剤を用いた凝集処理において，ウイルスが除去されるのみならず，不活化されることを世界で初めて明らかにしました。
これら一連の研究成果は，水系感染症ウイルスを含む広範な原水水質に対応し得る高度かつ高効率な次世代型浄水処理システムの開発に資するのみならず，深刻な水系感染症問題に直面している諸外国における課題解決に大きく貢献するものと期待されています。
略 歴
| 平成17年３月 | 岐阜大学工学部土木工学科卒業 | |
| 平成19年３月 | 岐阜大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了 | |
| 平成21年３月 | 日本学術振興会特別研究員DC２ | |
| 平成22年３月 | 北海道大学大学院工学研究科環境創生工学専攻博士後期課程修了 | |
| 平成22年４月 | 日本学術振興会特別研究員PD | |
| 平成23年１月 | 北海道大学大学院工学研究院助教 |
