北方生物圏フィールド科学センターでは,8月20日(月)から24日(金)までの4泊5日の日程で「野外シンポジウム2012 〜森をしらべる〜」を開催しました。野外シンポジウムは,本センターが管理する広大な森林や渓流,湖沼,湿原などを巡りながら,森林研究の方法や成果を現場で紹介し,野外調査の一端を体験しながら,何がどこまで解明されたのか,そしてこれから何を明らかにする必要があるかについて考える場です。
15回目となる今年の野外シンポジウムは,苫小牧研究林の森を舞台に開催しました。シンポジウムには北大生を含む全国各地の国公立15大学から森林研究に興味を持つ26名の学部学生が集まり,研究林スタッフと共同研究を進めている学外研究者を含む教員や大学院生から,森林研究の最新の成果や研究の進め方について学びました。今年は,最高気温が連日30度を超え,北海道らしからぬ猛暑が続く中でのフィールドワークとなりました。
プログラムの基本スタイルは,日中に野外の現場で行うフィールドセッションと,詳しい解説や質疑応答を中心とした夕食後の室内でのポスターセッションの2段構成になっています。「シカが森をうごかす 〜生き物たちのつながり〜」,「食うために,食われぬために 〜両生類幼生,驚異の変身術〜」,「下を向いて歩こう♪ 〜森を支える土壌の秘密〜」,「森の香りのそこから先 〜空と森の意外なつながり〜」など,ユニークで印象的なタイトルがつけられた11のテーマ別セッションが用意され,学部学生たちは研究現場の環境やデータの質感を確かめながら,初めてのフィールドワークに果敢に取り組みました。
野外でのセッションでは,キャノピークレーンに乗って鳥や虫の目線で空中からの林冠観察や,ヘルメットと安全ベルトを身につけて足場タワー(通称ジャングルジム)に登り,樹木の最上部の葉っぱを採取して形質や食害度の測定,落ち葉や土壌をかき分けてミミズや歩行性昆虫の捕獲調査,胴長を着用して池に入って両生類の捕獲調査など,本学研究林ならではのダイナミックな野外調査を存分に楽しみました。
夜のポスターセッションでは,現場で経験した共有の感覚をベースに掘り下げた議論を行いました。時間を惜しむように活発な質疑応答が繰り広げられ,研究の楽しさや難しさのほか,研究者たちの苦労話や試行錯誤の裏話などを聞く良い機会となり,毎日夜遅くまで楽しい交流の時間が続きました。
このほかにも,早朝の森へ出かけて野鳥や植物の観察や,川の源流に出かけて森と川のつながりを実感するなど盛りだくさんのメニューが用意され,雄大な自然を対象とした野外研究の楽しさを満喫しました。
全てのセッション終了後に行われた参加学生による模擬セッションは,北大らしくアンビシャスセッションと銘打ち,お気に入りのテーマを選び,研究を紹介する立場になって実験結果までを予想して発表しました。短い準備時間にもかかわらず,学生たちの中でふくらんだ「森林研究」への思いが伝わる手作りポスターを前にした楽しい発表会となりました。
最終日のエクスカーションでは苫小牧市郊外のウトナイ湖畔にある環境省野生鳥獣保護センターへ行き,レンジャーによる周辺の自然環境のモニタリングや鳥獣保護の活動などに関する講話を聞き,交通事故などによって保護収容された鳥獣の救護活動について説明を受けました。
参加した学生たちは「森の中でのセッションはとても気持ちが良かった」,「アンビシャスセッションが大変だったけれど,研究の進め方やプレゼンの工夫などがわかって楽しかった」,「大学の先生や大学院生の方と,とても近い状態で詳しく話を聞けたので良かったです」,「キャノピークレーンやジャングルジムに登って,森を上から眺めたことがとても印象的」,「とても楽しかった。もう一度参加したいと思いました」など,新鮮で濃密な5日間の感想を語ってくれました。森林研究の面白さを満喫した参加者の中から,大学院に進学して新しい研究テーマに取り組む学生が現れることを願いながら,今年の野外シンポジウムを終えました。事業の概要については,本センター森林圏ステーションのホームページ(http://forest.fsc.hokudai.ac.jp/~exfor/fr/)に掲載しています。