北方生物圏フィールド科学センター臼尻水産実験所(函館市臼尻町)では,8月11日(土)・12日(日)に「北海道の魚,まるごとリサーチ!」を開催しました。これは,科学研究費補助金「海産魚で初めて見つかった半クローン集団の起源と維持に関する遺伝生態学的研究」(研究代表者:宗原弘幸)の成果によるものです。本学を目指す高校生と中学生9名が未来の北大生として参加し,大学で行う実習さながらに野外観察,標本採集,室内実験に取り組みました。
最初に,臼尻実験所前浜の生物相の特徴とよく見られる生物の生態について,実験所に常駐する大学院生・学生が,「北大元気プロジェクト2012」で作成した『臼尻,海の生き物図鑑』を使い,教えました。その知識を実践するためには,正しいシュノーケリング技術が必要です。講習の後には,実験所にある大きな水槽をプールに仕立てて練習を行いました。このように図鑑で目を慣らし,シュノーケリングのスキルをしっかりマスターした甲斐あって,翌日の海中観察の時間までには,参加者は海藻や岩の間に潜む生き物の探し方まで習得しました。
そのほか,地曳き網で魚類標本を集め,それらの種名を調べた後,DNAで確認する実験にも挑みました。遺伝子実験は,かなり高度な内容で,翌日まで続く実験でしたが,指導に当たった大学院生・学生たちと楽しく会話しながら,全員がやり遂げました。
夕食前には,今回の目玉イベントである,知られざる臼尻の味覚の王者,クロマグロ(市場名-ホンマグロ)を材料としたまるごとリサーチです。実験所前浜の定置網で漁獲され,3日間氷温熟成させたクロマグロの登場に拍手喝采でした。氷漬けしたコンテナからクロマグロを取り出し,まずは全身の形態観察です。自分の手でクロマグロに触れる機会は,参加者だけでなく,今年度の実験所の大学院生・学生にとっても初めての経験でした。高速遊泳に見事に適応した流線型のボディー,背鰭や胸鰭を収納できる構造,冷たい海に適応するための腹部の脂肪(トロ)など,普段は目にすることができない部分までじっくりと観察を行いました。最後は,肉質による味の違いを確かめるリサーチで,クロマグロの実習は終了しました。
日常の教育現場と比較すると,9名の参加者に対して12名の指導者が対応するなど,参加者側から見ると贅沢な実習です。しかし,教える側の大学院生・学生にも大変意義のあるフィールドワークです。中高生に教える過程で,自動の実験機器で行われている化学反応の原理を復習し,自然や生命の尊さを再認識し,さらには自らの研究意義をも問い質す,学生生活を総括する機会になるからです。
このように,教わる側にも教える側にも,それぞれの目標に向かう確かなモチベーションを提供し,本実習が無事終了しました。実習の夏が終わると,研究の秋となります。大学院生・学生たちの成長と活躍に期待しましょう。