新年明けましておめでとうございます。平成25年の年頭にあたり,教職員,学部・大学院生の皆様方に,新年のご挨拶を申し上げます。
北海道大学が法人化され,満9年になろうとしています。この間,運営費交付金は約10%削減され,さらに大学病院の経営改善係数による負担等があり,本学の財務状況も厳しい状態が続いています。第1期中期目標期間には,教職員数が5%削減された中で,人件費の抑制,諸経費の節約,競争入札制度の幅広い導入,北海道内国立大学法人による共同発注や資金の共同運用等,節約に励み,また無駄を抑えることにより,留学生のための寮の充実及び学生支援のための体育施設や食堂等の充実を可能とすることができました。あらためて,全教職員の皆様方の努力と叡智に,心より感謝申し上げます。
あと3ヶ月で第2期中期目標期間の3年目が終わろうとしています。この第2期の本学の全ての活動を包括する4つの基本目標のうち,2つが本学のさらなる国際化に向けた目標であります。1つ目は「世界水準の人材育成システムの確立」であり,2つ目は「世界に開かれた大学の実現」です。大学の国際化を加速させねばならない主たる原因は,この20年間に,ベルリンの壁の崩壊を契機として,数多くの国々が市場主義経済に大きく舵をきったこと,加えて中国の急成長と市場主義経済への参入,そしてICT(情報通信技術)の急速な発展による国際的な政治・経済の枠組の劇的な変化であると言われています。EU圏においては,2008年のリーマンショック,それに続くギリシャの財政政策の失敗が他のEU諸国に波及することになり,今やグローバルな不況に陥る可能性も出てきています。このように,一国の経済の変化は,他の国々の政治・経済と相互に影響し合うことになっています。
商社マンとして海外で長く勤務され,イタリアの大学,米国のビジネススクールでも学ばれ,現在,日本ユニシス株式会社の特別顧問をされている国際経験豊かな島田精一氏の講演によりますと,現在の我が国の上場企業の利益の70%は海外活動の結果であり,それらの企業が外国に所有する資産は,2008年には2.9兆ドルと世界一になっているとのことです。さらに我が国の企業の現地法人数は,この10年で50%近く増えているとのことです。このような情況において,企業の経営者が期待する人材像は以下のようになります。1.雇用環境の大きな変化(グローバル化)について理解する人。2.自ら考え,自ら調べ,自ら実行できる人。3.一般教養と専門分野の深い知識を持つ人。4.自分の適性をよく知り,社会に出て何をしたいかを見つけられる人。5.旺盛な好奇心を持ち,タフな行動力を持った人。一言で言えば,「自己アイデンティティとグローバルな理解力を持った人」となるそうです。そのためには,できるだけ若いうちに留学し,外国の若い人々との多くの交流を通して,異文化を肌で感じることが重要であると述べておられます。島田氏の言われる人材像は,大学と産業界のメンバーで構成されている「産学協働人財育成円卓会議」での,「世界を舞台に活躍できるグローバル人材」の人材像とも,ほぼ一致しています。
本学でも,大学の国際化を加速すべく努力してまいりました。諸外国の大学等との学術交流・学生交流協定の数も増加し,本学で学ぶ留学生数も着実に増え,現中期目標である,本学全学生数の10%,1,800人にあと300人となっています。各部局及び先生方のさらなる努力に期待いたします。
さて,このような情況下で,本年度は文部科学省の国際的な人材育成等を目指した2つの事業に,本学の提案したプロジェクトが採択されました。ひとつは「グローバル人材育成推進事業」で,グローバル人材を養成する「新渡戸カレッジ」の創設であります。この事業は本年4月から実質的に開設され,入学者の中から希望者を募り,最終的には1学年200名を語学能力で選抜することになります。カレッジ生には在学中,原則として1セメスター(半年)から1年間の海外留学を義務づける(部局によっては,短期留学を含む)とともに,留学支援英語,英語による専門科目の講義,本学の北方生物圏フィールド科学センターの施設等を活用したフィールド体験型実習,多文化交流・異文化理解促進科目,日本文化・社会に関する理解促進科目,それにボランティアやインターンシップ等の実社会経験等15単位を,正規科目以外に履修することが義務づけられます。これらの科目には,チームワーク力やリーダーシップ力の育成を目的としたものも含まれています。さらに,20人の少人数クラス毎に本学教員が担任となり,同時に,社会で活躍されている本学同窓生にメンターとしての役割を担ってもらうことになっています。この新渡戸カレッジが着実に発展するためには,全学の教職員の方々の協力が是非とも必要です。
もうひとつの事業は,ASEAN諸国との大学間交流形成支援を目的とした「大学の世界展開力強化事業」です。この取組には,本学の農学院,環境科学院,水産科学院,工学院,情報科学研究科と,サステイナビリティ学教育研究センター等の学内教育研究センター,それに国際本部などが参加しています。これはASEAN地域における人口,活動,資源,環境における問題を解決するというフロンティアを担う人材育成のために,インドネシアとタイの6つの協定校との国際連携教育システムの構築を図ることを目的としたものです。フィールド研究力,多様性容認力,開拓力及び課題解決力を備え,ASEAN地域の発展に主導的な役割を担うことのできる人材の養成を目的としたもので,平成24年度は,派遣及び受入れ学生26名,平成25年度以降は60名となる予定です。このプロジェクトの推進に当たっては,成績評価の共通化等,高等教育の質保証についての成果も期待されています。
また,本学大学院の教育においては,英語のみによる教育プログラムのさらなる強化が望まれていますし,我々全教職員,学生が一丸となって国際化に向けた努力を加速すべき時となっています。
研究者の方々は良くご存知のとおり,平成7年,我が国における科学技術の水準の向上を図り,経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与し,世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的発展に貢献することを目的とする高い理念の下に,科学技術基本法が制定されました。その法律に基づき,3期15年にわたって科学技術基本計画を策定しました。その実行に際しては厳しい財政情況の中にあっても研究開発への投資の拡充が図られ,世界をリードする研究成果や実績があげられてきました。この間,本学の研究者も多くの恩恵を得てきました。一方で,我が国のGDPは伸び悩み,環境や医療等においても多くの課題を抱え,我が国は科学技術の成果を新産業や雇用の創出,国民の福祉向上,さらには一昨年の大災害への対応など,社会問題の解決に必ずしも生かしきれていないとの指摘もあります。昨年度からの5ヶ年を対象とする第4期科学技術基本計画の策定に当たっては,政策の役割を,科学技術の一層の振興を図ることはもとより,人類社会が抱える様々な課題への対応を図るためのものとして捉えています。重要なことは,科学技術政策を国家戦略の根幹と位置づけ,他の重要政策と密接に連携しつつ,科学技術によるイノベーションの実現に向けた政策展開をしていくということで,社会保障関連予算以外では唯一,予算の減額はありませんでした。我が国が科学技術の発展に命運をかけていると言っても過言ではありません。
ところが一昨年の7月,本学の取引先業者に本学の研究費の預け金と思われる金銭処理があることが,札幌国税局より指摘されました。早速,一昨年の12月に,本学の規程に依り,学外委員(弁護士,公認会計士)2名を含む5名体制で「不正使用調査委員会」を設置しました。その後,弁護士2名,公認会計士2名の4名を新たに追加し,9名体制で調査を進めてまいりました。昨年12月に開催の教育研究評議会において,「公的研究費の不適切な経理処理に関する中間報告」がなされ,翌々日の21日にはプレスリリースを行いました。中間報告では,不適切な経理処理があったと事実認定された教員は35名で,預け金,品名替えの総額は約2億2,400万円でした。本学では,平成16年以降,不正使用防止のため,諸規程の整備,不正使用の通報窓口の設置,「科学者の行動規範」の策定等,再発防止に向けた取組がなされてきたことを思うと,今回の調査結果は残念でなりません。大学は教育研究を通して,未来の社会を担う有為な人材の養成の場であり,教職員は当然のことながら,自らの行動を律するとともに,学生諸君の信頼を得るよう,日常的に心がけるべきであります。このような事案が二度と起こらないことを願うとともに,再発防止に万全の体制で臨みたいと思います。
さて,一昨年の6月の「国家公務員の給与減額支給措置について」の閣議決定以降,同年10月には,独立行政法人も国家公務員と同様の措置を講ずるようとの要請が閣議決定されました。その後,昨年5月には副総理から,独立行政法人における給与減額措置を急ぐようにとの発言がありました。また,国立大学協会の政策会議等においては,文部科学省から,減額した分は大震災の復興予算に使われることと,2年間の措置であることが度々説明されました。そして,早急な給与減額への協力が要請されました。給与減額は,国家公務員と同様,平均7.8%の引き下げとされ,本学においては昨年7月から実施することにいたしました。政府は我が国の経済の発展にかかわるイノベーションの創出と我が国の国際社会の中でのリーダーシップを取れるような人材の養成を大学に期待しながら,一方で給与を減額するといった政府の措置は,教職員のモチベーションの低下に繋がりかねない情況に陥ることが懸念されます。しかし,我が国の現在の財政情況,一昨年の大震災と原子力発電所の事故からの早急の復興,それに同じ国立大学法人も大きな被害を受けたことを鑑み,給与減額を決定いたしました。あらためて教職員の皆様の御理解をいただきたいと思います。
我が国の財政危機への対応と失われた20年とも言われる昨今の我が国の情況を克服するため,大胆な大学改革が昨年から開始されました。各国立大学法人の学部等の壁を越えた改革や,複数の国立大学法人の統合あるいは一法人が複数の大学で構成されるといったことも想定されています。
国立大学法人の設置目的と本学の理念,そして大学本来の持つべき機能に基づき,本学で働く教職員が将来に向かって希望を持てるような改革,学部・大学院生の諸君が本学で学び研究できることに喜びを持てるような改革が必要と考えます。また同時に,改革を迫る側の組織が真に無駄のない機能的な組織になっているかの検証も実施して欲しいと思っています。
最後になりましたが,平成25年が本学の将来に向けての輝かしい第一歩になることを願いますとともに,教職員及び学部・大学院生の皆様のご多幸と発展を心より願い,新年の挨拶とさせていただきます。
新年交礼会の様子 1月7日(月),佐伯総長の年頭の挨拶とともに,新年交礼会が始まりました。会場となった百年記念会館大会議室には,役員,部局長等が大勢集まりました。 |
![]() 乾杯の発声をする本堂武夫理事・副学長 |