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法学研究科 鈴木一人教授がサントリー学芸賞を受賞

各部門の受賞者とともに記念撮影(2列目の左から2人目,鈴木教授)

各部門の受賞者とともに記念撮影(2列目の左から2人目,鈴木教授)

鈴木教授による受賞スピーチ

鈴木教授による受賞スピーチ

 12月11日(火),法学研究科の鈴木一人教授に,公益財団法人サントリー文化財団よりサントリー学芸賞(政治・経済部門)が授与されました。
 この賞は,前年1月以降に出版された著作物を対象に選考され,広く社会と文化を考える独創的で優れた研究・評論活動をされた方に対し贈呈される賞であり,今回が第34回目にあたります。
 鈴木教授の著作「宇宙開発と国際政治」(岩波書店,2011年)は,従来何人も踏み入ることのなかった「巨大技術と国際政治」という領域に分け入り,宇宙を領域としてその政治的意義を解明したパイオニア的作品として高く評価され,今回の受賞に至りました。
 鈴木教授は,昭和45年長野県上田市に生まれ,平成7年立命館大学大学院国際関係研究科修士課程を修了,同13年英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程を修了しました。その後,筑波大学大学院人文社会科学研究科国際政治経済学専攻助教授を経て,平成20年に本学公共政策学連携研究部附属公共政策学研究センター准教授に着任,現在,法学研究科教授として在外研究を行い,プリンストン大学国際地域研究所で客員研究員を務めています。
 この著作において,鈴木教授が明らかにしたことは以下のとおりです。
 宇宙とは従来,人類が未来技術を発展させ,夢を描き出す空間であり,そこは物理法則しか通用せず,人間の存在は塵のように矮小な存在にすぎない空間とみなされていました。
 しかし,20世紀後半,米ソ超大国はミサイル開発競争など,宇宙をひとつの戦場とした無数の兵器体系を開発して,「宇宙戦争」を展開してきました。鈴木教授は,この権力政治体系を「ハード・パワー」としての宇宙システムという枠組みから説明します。
 また,21世紀の今日,すでに60以上の国々が,人工衛星を宇宙空間に飛ばして技術水準の高さを誇示していますが,この国家威信の発揚空間としての宇宙を,鈴木教授は「ソフト・パワー」として宇宙システムという枠組みを導入して説明しました。
 本書の本領は,この2種類のパワーによる宇宙の分析にとどまりません。第3の枠組みとして鈴木教授は,「社会インフラ」としての宇宙という枠組みを提示し,情報通信や気象観測,GPS(Global Positioning System)測位に宇宙が活用されている点を分析しています。同教授によれば,東日本大震災に際して唯一の通信手段を提供したのも,また津波の被害を全域にわたって克明・刻々と撮影したのも宇宙の人工衛星でした。
 宇宙政策には膨大な国の財政が投下され,鈴木教授の提示した「ハード・パワー」「ソフト・パワー」そして「社会インフラ」の3本の糸が織りなす文様を作り上げ,宇宙に関するグローバルなルール作りが進行しています。それにもかかわらず,日本の宇宙政策はいまだ「夢」と「希望」の空間という神話的願望に支配され,グローバルなルール作りに遅れをとっています。
 今後,鈴木教授が構築した枠組みによって,宇宙政策と科学技術政策に対して,より深い理解に基づき接近できることを心より喜びたいと思います。

(法学研究科・法学部)

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