総長退任挨拶

第17代総長 佐伯 浩

退任にあたって

第17代総長 佐伯  浩 (さえき ひろし)

 平成19年5月1日付けで,第17代北海道大学総長に就任してから,約6年の任期を満了し,本年3月末日をもって退任することになりました。この間,教職員の皆様方をはじめ,本学役員,経営協議会メンバー,そして連合同窓会の方々のご協力とご支援をいただきましたことに心より御礼申し上げます。
 国立大学は平成16年4月に法人化されましたので,第1期目の後半3年間と第2期目の前半3年間の計6年間を,第1期の目標達成,第2期の目標設定とその達成に努力してまいりました。第2期の目標設定に当たりましては,学内の20を超える部局を訪問し,その基本的内容の説明をさせていただきました。
 大学の基本的使命である教育や人材育成は,その公共性と社会的責任を十分認識して行われねばなりません。本学の歴史的背景,教育研究理念そして我が国の基幹総合大学としての位置付け,それに高等教育のグローバル化傾向を見据えた上で,第2期中期目標・中期計画の策定に当たりました。本学の全ての活動を包括する基本目標として,1)世界水準の人材育成システムの確立,2)世界に開かれた大学の実現,3)世界水準の知の創造と活用,4)大学経営の基盤強化,の4つを設定しました。現在,世界の高等教育に関する基準の統一化や教員・学生の国境を越えた流動化の現状を観るとき,上述した基本目標の1)と2)が本学にとって特に重要と思われます。そこで,この6年間の本学の国際化への取り組みについて述べたいと思います。
 本学の国際化を加速するため,キャンパス中央部に位置する旧工学部校舎を改修し,国際関連組織を一元的に運営する国際本部を平成22年に設置しました。また,積雪寒冷の北海道で,留学生が安心して生活できるよう,留学生のための寮の整備を進めました。現在,単身者用576室,家族用60室,計636室になりました。法人化後,約450室増やしました。また,この6年間で留学生は約600人増加し,現在約1,500人が学んでいます。各部局及び先生方,それに海外オフィスの担当者の方々の留学生受け入れへの努力と,法人化後の厳しい運営費交付金削減のなか,人件費の抑制,諸経費の節約,競争入札制度の幅広い導入等を進めるとともに,無駄を抑えることにより,留学生寮の充実,学生支援のための体育施設や食堂の充実も可能となりました。あらためて全教職員の皆様の努力と叡智に感謝申し上げます。
 さらに,「持続可能な開発」の実現に資する研究と教育を加速させ,国際貢献に寄与することを目的に,平成19年から「サステナビリティ・ウィーク」と名付けた事業を開催し,環境問題やサステナビリティに関する市民講座や国際シンポジウムを実施してまいりました。特に印象に残るのは,平成20年7月,地球環境問題を話し合う「G8北海道洞爺湖サミット」に先駆け,「持続可能な社会づくり」に向けた研究・教育の強化を目的に20以上の国際シンポジウムを実施し,本学の研究成果を広く国際社会に公開しました。また,同サミットに先立って,歴史上初めての試みとして,G8諸国と他の主要国14ヶ国の大学等35大学の学長等140名による,「G8大学サミット」を開催しました。最終日には地球の持続可能性を達成するため,大学自らがサステナビリティ達成に向けて取り組んでいくことを約束するとともに,G8サミット参加の首脳に対して,気候変動等に対する科学的で適正な政策の実施を求める「札幌サステナビリティ宣言」を採択し,それを,当時の福田康夫総理に手交致しました。本会議を実質的に支えたのは本学の事務職員の方々で,彼等の能力の高さを示し,本学の国際的プレゼンスを高めることにもなりました。この大学サミットの1週間後,潘基文国連事務総長が本学を訪問され,「世界的食糧問題を考える―国連事務総長と北大生との対話」と題した特別講演会が開催され,本学学生から活発な質問が出され,事務総長からも高い評価を受けました。
 私の在任中,最も大きな喜びであり,興奮したのは,平成22年10月6日,本学名誉教授である鈴木 章先生のノーベル化学賞受賞ニュースを聞いた時でした。先生は本学理学部で学ばれ,その後工学部で永い間,教育研究に携わってこられ,私にとりましても,工学部教授会で約25年間ご一緒させていただいていたこともあり,この上なく嬉しいニュースでした。本学に関わる全ての人々にとっての誇りともなりました。先生は受賞後,国の内外での講演に忙殺されておられますが,その度に本学のキャンパスの美しさ,研究環境の良さにも言及されていると伺っています。先生がいつまでも健康であられることを願って止みません。
 本学は4月から山口佳三次期総長のもとで新たな発展に向けてスタートすることになります。国立大学法人は現在,さらなる変革を迫られています。全学の教職員が心を一つにして,これからの難関を切り抜け,それが北海道大学のさらなる飛躍と発展に繋がることを願っています。

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