メディア・コミュニケーション研究院では,2月7日(木)に「リスク時代における《ポリティクス》―拡散する問題圏,流動化するプロセス―」と題する国際シンポジウムを,情報教育館で開催しました。本シンポジウムは,物質的な豊かさを享受する一方で,社会構造が大きく転換しつつある現代の状況を受けて,キーワードとしての「リスク」を軸に,より安心して暮らせる社会の在り方を模索しようと企画されました。そのため,イギリスと韓国からリスク論を代表する研究者をお招きし,100名近い参加者を巻き込んでの活発な議論の機会となりました。
当日は,宇佐見森吉メディア・コミュニケーション副研究院長の開会挨拶,金山 準准教授の趣旨説明に続いて,グレン・フック教授(英国・国立日本学研究所,及びシェフィールド大学ホワイト・ローズ東アジアセンター所長)による「境界線のリスク―尖閣諸島における領土主権とガバナンス」と題した講演がありました。フック教授は,政府が対外的・対内的なガバナンスを維持する過程において,リスクという言説がどのように組み込まれているかという観点から,歴史的経緯や政府間の動きを分析し,「領土問題のリスク」が日本の軍事化を導いている過程を明らかにしました。続いて,ハン・ドンソプ教授(韓国・漢陽大学)が「原子力発電の政治化―リスクと機会の間のコミュニケーション」と題して,韓国の原子力発電が政治課題となっていく過程について講演しました。
その後,第2部として,青山和佳准教授による司会進行のもと,フック教授,ハン教授に加えて,本研究院の鈴木純一教授,鍋島孝子准教授を交えてのディスカッションが行われました。
ディスカッションでは,問題の論点を整理しつつ,リスクが注目される社会状況はなぜ生じたのかという問いから,国際社会における領有権の位置づけや「原子力ムラ」といった具体的な話題まで,幅広い論点が出されました。
会場には,教員や学生はもとより,多くの一般市民が参加しており,リスク論と市民生活を繋ぐような活発な討論が行われました。来場者からは,問題に対する視点が日本国内外で異なることや,学術的なアプローチの意義と斬新さを指摘する意見,また思考を深める場として今後も継続して開催してほしいといった要望をいただきました。
いま,国境や立場を超える「リスク」がますます注目されていくなかで,市民を交えつつリスク論を国際的な視野から議論できたことは,本シンポジウムのひとつの成果と位置づけられるでしょう。