本シンポジウムはセンターが主催するシリーズシンポジウムであり,第1回にあたる今回は,化合物スクリーニングからリード化合物を同定する過程にフォーカスを当て,これからハイスループットスクリーニング*を実施し,リード化合物の同定を始める研究者のサポートを目指し企画されました。
シンポジウムの開会に際し,センター長の前仲勝実教授から,創薬科学研究教育センターの組織と導入設備の紹介が行われました。続いて,東京大学創薬オープンイノベーションセンター 熊谷和夫特任准教授から,「化合物スクリーニングのてびき―アッセイ系構築からHit to Leadまで―」と題してハイスループットスクリーニングに関する企業での経験とノウハウを交え,ご講演いただきました。また,スクリーニングを効率良く,かつ低コストで信頼度を高めるための「データ解析方法」や化合物溶液サンプルの取扱方法についても解説いただきました。
次に,遺伝子病制御研究所 山内 肇博士研究員から,「正常細胞ががん細胞を攻撃する作用を促進する低分子化合物のハイスループットスクリーニング」と題し,講演が行われました。この講演ではハイスループットスクリーニングの結果,望ましい薬効を示す低分子化合物を数個同定したことが報告されました。最新の研究の進捗状況の報告に,多くの参加者から賞賛と激励の言葉が寄せられました。続いて,薬学研究院 米田 宏講師から,「低分子化合物によるスプライス変異克服への挑戦,snRNP調節化合物探索系の構築から候補化合物の取得まで」と題し,講演が行われました。非常に複雑な現象に起因する重篤な疾患をスプライシングに焦点を当て,巧みに細胞アッセイを構築しスクリーニングを行った結果,この研究においても創薬に活用できるリード化合物が同定されていることが紹介されました。いずれの発表においても予期せぬ化合物が関与する可能性が示唆されるデータが示され,創薬だけではなく,生命現象解明への基礎研究の糸口となる結果も報告されました。
最後に,創薬科学研究教育センター齊藤貴士技術職員から,東京大学の21万化合物ライブラリーのスクリーニングに関する申請方法とその流れの紹介があり,それに続き,「インシリコと表面プラズモン共鳴法を組み合わせた化合物スクリーニングの試み」と題し,講演が行われました。創薬科学研究教育センターに導入された種々のドッキングツールを用いてインシリコスクリーニングで候補化合物をリストアップし,表面プラズモン共鳴測定装置によりターゲットに対して効率良く,特異的親和性を示すリード化合物を同定していく方法が実例を挙げて紹介されました。
シンポジウム終了後に開催された意見交換会でも,活発な討論が行われ,スクリーニングに関するノウハウについて意見交換がなされました。
本シンポジウムの参加者の総数は100名近くにものぼり,予想を大きく上回る大盛況であり,創薬への関心の高さを実感する機会ともなりました。
*ハイスループットスクリーニング
膨大な種類の化合物の中から,自動化された機器を使用し,疾患創薬ターゲットに対する活性のある化合物を同定する技術。