本日学士学位記を授与されました2,539名の皆さんに心から祝意と敬意を表します。
我が北海道大学は1876年その源流たる札幌農学校の創立を起点として爾来,現在まで137年間に総勢126,518名の卒業生を世に送り出してまいりました。これら先輩諸兄,同窓会を代表いたしまして,皆さんにご挨拶させていただきます。
本日をもって卒業される皆さんは,社会に出られたり,大学院に進学されるわけであります。しかし,今日皆さんがあるのは,両親,家族,友人,地域,大学,諸先生,また国家からの支援のおかげです。
皆さんの人生は長いです。皆さんの人生はおそらく90年位になるでしょう。大学卒業後25歳から65歳までの40年間働いたとしても,それ以外の50年間は国家の世話を受けることになります。だからこそ,両親から自立し,社会に出て,自らの生活基盤を確立しながら,今までお世話になった両親,家族,社会,国家に対して貢献することを第一に考えていただきたいと思います。
私は日本の現状に非常な危機感を抱いています。それは,民主国家は,「義務」と「権利」が根本ではなく,「権利」と「義務」が根本であるように思われているからであります。これは間違いです。皆さんは,「権利」ばかりを主張せず,自分たちがどんなに「義務」を果たせるか,この考えを常に維持して欲しいと思います。
急に国家に貢献せよ,義務を果たせ,と言われても戸惑うかもしれません。まず必要なことは,個人が「学ぶ」努力をし,研鑽を積み重ねながら働くことです。その中にあって心すべきことは,「志」を忘れてはならないということであります。
札幌農学校の第二期卒業生たる新渡戸稲造は今から113年前,1900年にアメリカ・フィラデルフィアで,極貧の中勉学に勤しみ,過労の果てに神経症を患いながらも,かの名著「武士道:The Soul of Japan」を書き上げました。その中で「日本人の精神の重要な核心は“武士道”である」と謳っております。
また同じく第二期卒業生の内村鑑三は著書「代表的日本人」の中で,日本人の主な人物として,西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮上人の5人を挙げ,その生涯を通じて,想像以上の逆境の中,人の道・徳を重んじていたことを紹介しております。
札幌農学校が生んだこの二人は,同じく想像を絶するような逆境・苦難・試練の中でも,自分自身を磨き,「志」を貫き,社会に貢献するということこそ,人間の本質だと言っているのだと思います。様々な困難に直面し,道を切り拓こうとするその精神は,どの時代においても共通するものとして,我々北大人に脈々と受け継がれていくべきものと考えております。
人生の成功のためには,「逆境,困難,これはあって必然だ」と思って,焦ることなく大きな気持ちで,本日の学位記授与式後の人生を歩み出してください。皆さんの前途は洋々たるものであります。皆さんの社会での今後の健闘を期待しております。
最後に重ねて申し上げます。本学の卒業生,同窓会を代表いたしまして,本日の皆さんの学位記授与,心から祝意と敬意を表します。