経済学研究科では,韓国延世大学校商経大学の朴 基永(Park, Ki Young)准教授による研究報告セミナー「Agency Costs and Corporate Liquidity Demand: Evidence from Bank Loan Commitment Usage during the Financial Crisis」を7月24日(水)午後4時30分より経済学部3階大会議室にて開催しました。
延世大学校商経大学と本学経済学研究科は部局間交流協定を結び,双方の研究科を交互に会場としながらこれまで計17回の共同セミナーを開催してきました(この協定は2010年12月6日から大学間交流協定へとスケールアップし,経済学研究科が責任部局を務めています。)。昨年9月に経済学研究科にて開催された際,朴准教授も研究報告にいらっしゃって本学に好印象を抱いて下さり,今回のセミナー及び大学院集中講義「Macroeconomics」(2単位)の開催・開講に至りました。過去には平成23年7月にも延世大学校から韓 淳九教授が経済学研究科を訪れ,セミナー及び大学院集中講義「ゲーム理論」(2単位)を開催・開講しています。今後とも交流を継続・発展させていく所存です。
朴准教授は,韓国の銀行の融資枠契約のデータを用いて,企業がどのようなタイミングで融資枠から資金を借りようとするかを分析しました。融資枠契約とは,銀行(貸し手)が企業(借り手)に対して最大限どれだけ融資してもよいかを事前に決定し,契約した期間内であればいつでもその額までいくらでも融資してくれる契約のことを指します。企業としては,資金がいつどれだけ必要になるかが事前に分かっているなら,いついくら借りるかを契約してしまえばよいでしょう。しかしながら,事業には不確実なことが多いことから,事前には分からないことも多々あります。それでもいついくら借りるかを事前に契約してしまうなら,実際に資金が必要になった場合には結果に問題ありませんが,必要なかった場合には企業は利子支払いの分だけ損をしてしまいます。一方で,実際に必要になってから慌てて借りようとしても,銀行は貸してくれないかもしれません。ちょうどその時に企業の業績が悪かったり,企業の業績は悪くなくても銀行が新たな貸し出しに慎重になっていたりするかもしれないからです。そこで,いついくら借りるかをあらかじめ決めてしまわずに,それでいて借りようとした時に貸してもらえない危険を避けるために,「いくらまで借りられるか」だけを契約しておくのです。もちろん,企業に便宜を図るわけですから,銀行はその分の手数料を受け取ります(借りるときの金利はそのときの金融市場での相場に依存します。)。そうすることによってお互いに得をすることができるシステムとなっているのです。現代ではこのような金融サービスが数多く開発されています。なぜそのような金融サービスが貸し手と借り手の双方に得をもたらすのか,少し考えないとわかりにくいものも多いので,ぜひ経済学研究科・経済学部で金融経済学やファイナンス理論を勉強していただきたく思います。
さて,朴准教授の実証研究の問いは,「融資枠契約をした企業はどのようなタイミングで実際にこの融資枠から資金を借りようとするのか」です。企業ごとの個別の事情を除きますと,融資枠から資金を借りようとするタイミングには次の2つが考えられます。1つは,金利が下がったときです。安く借りられるので,せっかく融資枠があるのだから借りておこうというわけです。もう1つは,金融危機などの影響により銀行が新たに貸し出すか否かの審査を厳しくしたときです。融資枠契約以外で借りようとしてもなかなか貸してもらえないため,いつでも上限までいくらでも借りられることを事前に決めておいた融資枠から借りようというわけです。朴准教授の実証研究では,借りるタイミングはその企業が優良か否かによって異なることが発見されました。すなわち,資金を貸してもらいやすい優良企業は,審査の厳しさには影響されず,金利が下がったときに融資枠から借りる一方,優良でない企業は,金利には反応せず,審査が厳しくなって他から借りにくくなると融資枠から借りることが発見されました。データから見出された結果の解釈をめぐって熱い議論が繰り広げられ,参加者のみならず朴准教授にとっても有意義なセミナーになったと思います。セミナーの開催にご尽力いただきました皆様,ならびにご参加いただきました皆様に感謝申し上げます。