名誉教授 馬場 宏明 氏 (ばば ひろあき) 氏 (享年90歳)
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名誉教授 馬場宏明氏は,平成25年6月26日にご逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。 先生は,大正12年5月21日北海道に生まれ,昭和22年9月東京帝国大学理学部化学科を卒業され,東京大学理学部大学院に進学された後,同26年5月富士電機製造株式会社に入社され,同28年7月北海道大学応用電気研究所助教授を経て,同36年10月同教授に昇任されました。昭和62年3月停年により退官後,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。 先生の研究功績は,有機分子の電子スペクトルと電子励起状態に関するものです。理論・実験・技術の各方面から研究の結果,この分野で基礎的な方法を提示され,新領域を開拓・発展させました。まず,有機分子の吸収スペクトルの置換基効果から,π-π*,n-π*として世界的に広く用いられている2種の電子遷移の分類が重要であることを最初に指摘され,さらに各種誘電体分子の電子状態を,親分子の電子状態によって解析する方法である,電子配置解析法を提示されました。これは,電子スペクトルの帰属や励起状態の性格を知るのに極めて有効であり,分子化合物等の電子状態の解析にも適用可能なことから,各方面で利用されています。また,電子吸収スペクトルの溶媒効果から,フェノール等の分子が他分子と一対一の水素結合を形成することにより,吸収帯に著しい変化が生じることを発見され,平衡論を確立したことは国内・国外でよく知られており,電荷移動型錯体の研究と並んで分子間結合の分光学的研究の代表例となりました。 他にも,含窒素芳香族類のπ*-nけい光,ピレンとその誘導体の第二励起状態からのけい光などを見出され,従来の定説を変えたばかりでなく,無輻射遷移研究に大きな手掛かりを与え,学会の注目を浴びられました。 これらの研究の成果によって,物理化学分野はもとより,広く理学,工学,医学の諸分野の発展に貢献され,昭和40年12月第2回松永賞を,同50年4月日本化学会賞を受賞され,同60年11月紫綬褒章,平成5年11月勳二等瑞宝章受章の栄誉に輝かれました。 学内においては,昭和48年4月から同51年3月,昭和54年4月から同57年3月の2期6年にわたって,応用電気研究所長として研究所の充実・発展に貢献し,本学評議員として大学の運営にも尽力されました。 また学外においては,岡崎国立共同研究機構評議員,文部省学術審議会専門委員,学校法人静岡理工科大学理事,光化学協会会長等を歴任され,責務を果たされました。 以上のように,先生は物理化学の分野において多くの研究業績を挙げ,我が国の学術上の進歩のみならず世界の関連分野の研究の発展に多大の貢献をするとともに,後進の指導,育成に尽くされました。 ここに謹んで先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。 |