本学の研究・教育の水準を維持するためには,ますます「資金運用」の重要性が増していると言えます。とはいえ,空前の低金利の中では利息収入を増やすことは大変困難な状況です。今回は,普段あまり話題に上ることのないこのような点をご紹介しつつ,皆さんに「資金運用」のあり方についてご理解いただければと思います。
海外の大学の資金運用は?
5年ほど前の新聞記事にこのような話題がありました。
「米国の調査によると,ハーバード大学の3.8兆円,エール大学の2.5兆円,スタンフォード大学の1.9兆円など,資産運用のために単独で1兆円以上の基金を持つ大学が6校もあった。金融工学を駆使し,金融派生商品やヘッジファンドなどにも投資して,それぞれ年18〜28%の投資収益を上げていた。」
基金の高額さ,ハイリスク・ハイリターンの運用,さらには多様な保有資産内容から運用スタッフの数に驚きましたが,米国の大学における資金運用のスタートが300年前であることを知り,あるいは大学自体が寄附で建学された経緯を知るにつけ,納得するところもありました。
他方日本では,大手私立大学になると1,000億円前後の金融資産を保有していますが,これも,これらの大学の100年を超える歴史や建学の状況を見ると納得できるものです。この期間,これら大手私立大学は,卒業生の結束を固めつつ寄附金を集めることに力を入れてきています。資金運用は,まず寄附集めから始まるということでしょう。
国立大学はどうでしょうか。本学も140年近い歴史がありますが,常に国家予算の中で研究・教育費が賄われてきたこともあり,先生方の研究資金は別として,大学としての寄附集めは創基として行われる事業の一時的なものであり,また資金運用にもさほど関心は払われませんでした。
こうして米国,日本の私立大学に比べてみると,建学の時から始まる寄附金集めの歴史の差が国立大学の資金運用にも現れていることがわかります。
もっとも,状況は変わりつつあります。本学の「北大フロンティア基金」は50億円を目指して平成18年10月にスタートし,8年目には累計28億円を超えて,新渡戸カレッジ生への支援も始めました。「千里の道も一歩から」。今は折り返しといったところでしょうか,今後も着実に歩み続けたいと思います。
運用方法は?
集まった基金をどのように運用するかについても簡単に触れておきます。
本学には,「北大フロンティア基金」以外にも国からの運営費交付金,競争的資金,先生方の奨学金など多様な資金が入ってきますが,大学に入金されてから資金執行まで当然タイムラグがあります。
そこで,資金の出入りを正確に把握・予測し,支出までの資金滞留を見極めるのが第一に重要となり,次に預金から国債など金融資産の中から何を選択しどのくらいの期間運用するかが重要になります。最後に銀行,証券会社に運用条件を提案し入札を行う手順です。
平成16年4月の国立大学法人化後,本学においては,1年以内の短期,1年超の長期に分けて資金運用を行っており,平成24年度の延べ運用額は1,237億円(1回の運用額×運用回数),平成24年度末の保有金融資産は219億円です。利息収入は5,900万円ですが,ピーク時の平成20年度の運用収益が2億円ですので,今はその3割程度という状況です。
これからの展開
法人化後,資産運用体制の整備・規定の制定などを進めながら実務の幅を広げてきましたが,現下の低金利だけは妙策がありません。少し金利の高い長期の国債を購入して当面の利息収入を確保するのか,あるいはいずれ景気上昇に伴って着実に上がるであろう金利に備え短期の金融資産を購入するのか判断が必要です。大学の研究・教育の水準を維持するために,このような努力がなされています。
もっとも,原点を忘れてはいけません。利息収入も大事ですが,米国の大学や国内の私立大学の資金集めの苦労や多様さを参考にしつつ,卒業生を中心とした関係の方々にまずは大学の現状をお知らせし,関心を持っていただくことが重要かと考えています。そして,そうした関心を本学への寄附に繋げていくという,迂遠な様でありますが確実な道を歩み,「北大フロンティア基金」のさらなる積み増しを図ることが,今後の本学の研究と教育を守っていくためにも大事かと思っている次第です。