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公共政策学連携研究部 遠藤 乾教授が読売・吉野作造賞を受賞

 7月16日(水),公共政策学連携研究部の遠藤 乾教授が,読売・吉野作造賞を受賞しました。
 この賞は,読売新聞社の「読売論壇賞」と中央公論新社の「吉野作造賞」を一本化して平成12年に創設されました。政治・経済・社会・歴史・文化の各分野における優れた論文,及び単行本を顕彰し,日本を代表する論壇の賞として評価されています。
 遠藤教授の著作「統合の終焉 EUの実像と論理」(岩波書店・平成25年4月刊)は,EU(欧州連合)の歴史や政策,さらには思想にまで踏み込み,その実像を多面的に描き出した力作として高く評価され,今回の受賞に至りました。
 遠藤教授は,平成元年本学法学部卒業,平成3年同法学研究科修士課程修了後,平成4年ベルギー・カトリック・ルーヴァン大学で修士号(MA)を取得し,平成5〜6年欧州委員会・未来工房専門調査員を経て,平成8年にオックスフォード大学博士号(D. Phil)を取得しました。その後,本学法学研究科助手,同講師,同助教授を経て,平成18年公共政策学連携研究部教授(国際政治)に昇任し,現在に至ります。
 本学名誉教授の中村研一氏による受賞作の書評は以下のとおりです。
 ヨーロッパ統合中興の祖ジャック・ドロールを検討した本書3章「ヨーロッパ統合のリーダーシップ」(初出は平成6年。同8年のD.Phil論文の骨子)で,EU(当時はEC)活動の中心に心身を置いて認識することを介し,欧州統合現象への脱神話化を成し遂げ,また,対象を把握する深さと渉猟した史料の広さの両面で,我が国のヨーロッパ統合研究を画段階的に変えました。
 「補完性原理」の歴史的文脈を掘り起こした10章(初出は平成15年),及び,統合の父ジャン・モネの国際活動の文脈を分析した2章(初出は平成21年),さらに欧州統合の反対者マーガレット・サッチャーとドロールの対立を分析した4章(初出は平成21年)は,今後の統合研究者に読み継がれるべき古典です。遠藤教授は,これらの執筆と平行して,欧州統合の原史料を逐一発掘・翻訳した一大編著『原点ヨーロッパ統合史』(名古屋大学出版会,平成20年)の共同作業を推進し,我が国の欧州統合研究の発展基盤を確立しました。
 上記以外の本書の8章の学知上の課題は,統合過程(「大文字の統合integration」)を主権国家の拡大ないし代替の構想とみなす言説体系からの転換です。また,主権国家を記述する政治術語をそのまま,ないし,反転させて統合政治に援用する慣行からの脱却です。かつて存在し,今も確実に存在するヨーロッパ統合政治の認識枠組みを,遠藤教授は「小文字の統合integration」(統合機関の組織間・組織内政治,及び欧州委員会などへの集権化と加盟国への分権化の間の綱引き)と呼びます。
 本書4章は,統合反対者であるサッチャーを,「マイ・マネー・バック」と叫び,過剰な自己主張と過剰な主権に固執することによって,愛する身内をも敵に回し,自滅する「狂乱女王」と描きます。敵手ドロールは,統合推進者としてではなく,「人格主義者」であることで勝利します。この「小文字の統合」から描かれた「サッチャー対ドロール」は,ヨーロッパ研究の泰斗スタンレイ・ホフマンが描いた「ドゴール対モネ」を髣髴させ,説得的で,かつ,読者を楽しませます。
 等身大の観点から見直し,当事者の言説のなかに発見し,それを政治学の術語として洗練させた遠藤教授の著作は,我が国の統合ヨーロッパに関する認識を永遠に変えようとしています。
 本書が多くの評者に高く評価され,より多くの読者に出会えることを,心より慶賀したいと思います。
贈賞式の様子

贈賞式の様子

挨拶をする遠藤教授【読売新聞撮影】

挨拶をする遠藤教授
【読売新聞撮影】

(公共政策学教育部・公共政策学連携研究部)

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