総合博物館では筑波大学芸術系とともに,9月6日(土)から9月28日(日)まで,企画展示「三岸好太郎と札幌の山−三岸好太郎作《北海道風景(大通公園)》をめぐって−」を開催しました。
三岸好太郎(1903〜1934)は,詩情あふれる作風と,道化師,貝殻,蝶を描いたことで知られていますが,実景に基づく多くの風景画も残しています。筑波大学が所蔵する油彩画《大通公園(北海道風景)》は,1932年夏から数か月にわたり札幌に滞在した三岸が,精力的に風景画制作に打ち込んだ時期の一枚と考えられます。同作品の題名は,初出の展覧会以降「大通公園」もしくは「北海道風景」と呼ばれるのが慣例化していましたが,筑波大学収蔵後の調査により作品裏面の木枠に見える書き込みや,風景の様々な形象の観察から,本学構内にイーゼルを立てて描かれた可能性が浮上しました。
企画展では,当該作品に描かれた場所を特定するにふさわしい知見の獲得を広く学内外に問うことを目指しました。筑波大学が北海道立三岸好太郎美術館の協力を得ながら調査した成果により,当該作品そのものをはじめ関係する資料を展示した他,画家自身や札幌,本学にゆかりのある専門家や市民の方々にご参加いただくワークショップ「三岸好太郎と北海道大学構内」を開催しました。
展示会場には連日多くの方が来場され,50年ぶりに札幌に戻った作品を熱心にご覧になっていました。9月14日(日)に開催したワークショップでは,4件の講演――「作品《北海道風景》の観察をめぐるいくつかのこと」(寺門臨太郎(筑波大学)),「1920−1930年代,札幌美術瞥見」(地家光二(北海道立三岸好太郎美術館)),「三岸好太郎と札幌」(苫名直子(北海道立文学館)),「三岸好太郎のアトリエ−モダン建築創造のよろこび」(池上重康(北海道大学))の後,三岸が本学構内でイーゼルを立てたのではないかと想定されるポプラ並木北側に講師と参加者が移動し,西の山並みを見ながら議論が交わされました。三岸がどこで描いたのか,何を描きたかったのか。今後,研究が更に進むことが期待されます。
また,本企画は,大学の知的資源としての美術作品を媒体として,大学間の垣根を越えた学術的共同事業であると同時に,美術史,博物館学,歴史学,地理学等にまたがる脱領域的な研究推進事業の試みとして意味づけることができます。
本企画は学内外の多くの方にご協力いただきました。この誌面を借りてお礼申し上げます。