役員便り

理事 鋳山 賢一

北大病院の10年の歩み

理事 鋳山 賢一 (いやま けんいち)

 北大赴任前の平成17年3月,大学から厚さ2pの病院経営に関する財務データ集が送られてきました。「よく読んで来てください」との関係者からの電話もありました。病院の収入に関する,ありとあらゆる数値が数年分に亘って集められていました。ただし,そこには病院のコスト(費用)に関するデータは少なかった様に思います。
 当時の中村睦男総長から病院の「経営改革」を委ねられ,意思決定機関の「病院執行会議」に参加,病院財務担当理事として病院との関わりがスタートしました。「経営改革」とは簡単に言えば,法人化後に毎年4億円ずつ病院宛の国からの交付金が削減されるため(結果には5年後,単年度で交付金が20億円減額),これに耐え得る経営体制を作り上げる事です。
 当時の病院収入が200億円ですから,5年後1割に相当する交付金がなくなる部分をどう埋め合わせるのか,それも収入を単に20億円増やすのではなく,診療に使われる医薬品,材料費など費用を吸収したうえでの20億円,すなわち利益を増やさなければなりません。法人化以前から病院施設・設備整備は,所要資金の9割は自己負担が原則(法人化時点で国からの借入金に振替)ですが,その認識が薄かった様です。因みに借入金は16年度末で353億円ありました。

意識改革

 大学では当時,必要経費は国から措置されるものという考えがあり,病院も同じ発想でした。診療行為で得る病院収入と国からの交付金,医薬品,材料費,人件費等の経費を各々で計数整理しているものの,「収入−費用=利益」という視点で分析する発想が薄い状況でした。いわんや利益をあげるとはどういう事かという状況でした。過去の病院にコスト(費用)データが少なかったのも頷けました。
 早々に「病院執行会議」で,世に言う管理会計とは何か,患者さんを紹介してくれる病院へのマーケティングとはどういうことかを,手作りの資料を使って説明しては違和感を抱かれたのが懐かしい思い出です。何年か経て,「この人何を言っているんだ?」と当時は思ったと出席していた方に打ち明けられ,私は異邦人と思われていたのだと得心した次第です。
 ひたすら実行あるのみという状況で,病院収入を増やし,医薬品費などの負担を吸収したうえで利益を増やす具体策を全員で考えなければ明日はありませんでした。「このままでは病院は潰れる」と言えば,「潰れるとはどういうことか,良く分からない」と言われ,ならば「潰れるということは,資金がなく診療科の必要とする欲しい設備の更新・新設ができず,古い設備のままでは結果的に患者さんが来なくなること」と話して理解を広げました。
 担当理事の説法だけでは物事は進みません。病院内での経営改革を進めるには資金が必要です。収入を増やすべく診療を行ううえでボトルネックとなっている部分に新しい機器や設備,人員を投入する,すなわち世に言う「先行投資」を行う必要があります。「費用」が先,「収益」は後からついてくると本部の役員に説いていました。そうした実績を基に,双方の信頼関係を積み上げてきたと思います。

今の姿

 病院収入は200億円から260億円,借入金は353億円から97億円と,大手大学病院のなかでも健全な状態です。収入を得るための経費率でも良好な姿です。結果で見れば,10年かけ診療設備の更新を「何とか病院で負担可能な状況」になりました。しかし「何とか」というのは,多くの問題を未だ抱えていること。現在,診療報酬制度の変革に消費税増税も加わり,全くの逆風下です。
 教育と研究と診療を成り立たせるには,高いモラルがなくては務まりません。更に経営という視点で改革に取り組まれている先生,看護師,薬剤師,コメディカル,病院職員全員の努力の結果が今の姿です。10年間の努力への敬意とともに,次の10年の飛躍に向け頑張りましょう。
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