この度,本学名誉教授水谷純也氏(元農学部教授)が北海道科学技術賞を受賞されました。この賞は,道民生活の向上のために科学技術の研究,実践活動により,地域産業の振興に貢献した業績をたたえ,道民の科学技術の振興意識を高揚するために贈られるものです。
同氏が長年にわたって優れた業績をあげてこられたことに対し,表彰がなされたものです。 受賞にあたっての感想,功績等を紹介します。
(総務部総務課)
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水谷 純也 氏 |
この度は,図らずも北海道科学技術賞を受賞いたしました。北海道で生まれ育ち,生涯の大半を過ごした私にとり,北海道知事からこのような賞をいただいたことは,大変光栄なことであり,有難く存じております。ご推薦あるいはご審査下さった関係各位に厚くお礼を申し上げます。
授賞の対象となった研究の出発点は30年近く前に遡ります。農薬化学講座の初代教授で恩師の故小幡彌太郎先生の後を継ぎ,当時農薬が大きな社会問題となっていたこともあり,農薬の原点に帰ろうということで,植物が本来有している防御機構を明らかにするため,植物成分の研究に取り組みました。爾来,教職員,大学院・学部学生の皆さんの協力により,植物が作り出している成分,とくに二次代謝産物とよばれる化学物質が生物間相互作用において果たしている機能が少しずつ分かってきました。
私共の研究成果が次第に認められ,私は1988年10月から5年間,新技術事業団(現科学技術振興事業団)の創造科学技術推進事業ERATOプログラムのひとつ「植物情報物質プロジェクト」の総括責任者を引き受けることになり,海外からの研究員を含む10数名の研究員やスタッフの協力によりさらに研究を発展させることができました。植物情報物質の英語名,“plant
ecochemicals”も国際的に認知されるようになりました。
1993年10月,プロジェクトの成果を継承,発展させるために,北海道,恵庭市,科学技術振興事業団,その他民間企業等の支援により社団法人植物情報物質研究センターが設立され,現在も10名ほどの協力者と研究を続けております。したがって,この度の受賞はこれらの長年にわたる多くの共同研究者ならびに研究を支えてくれたスタッフを代表して,私がその栄に浴したということになります。
私共の研究は植物が生態系において,他の生物とどのように関わりあって生存しているのか,化学的観点から見ていこうというものです。生物間相互作用において植物情報物質(プラント・エコケミカル)が果たしている役割についてはかなり分かってきたように思います。この知見を農業および関連産業に役立つ技術として確立するためには,まだこれからやらねばならないことが沢山残されております。この受賞を契機に,植物情報物質研究センターにおいて,さらにプラント・エコケミカルの応用を目指した開発研究に従事していきたいと考えております。 |
略 歴 等 |
生年月日 |
昭和7年9月20日 |
出身地 |
北海道 |
昭和30年3月 |
北海道大学農学部農芸化学科卒業 |
昭和32年3月 |
同大学大学院農学研究科修士課程修了 |
昭和35年3月 |
同上 博士課程修了(農学博士) |
昭和35年4月 |
北海道大学農学部助手 |
昭和35年9月 |
マサチューセッツ工科大学理学部研究員 |
昭和38年5月 |
東京農工大学農学部講師 |
昭和39年2月 |
同上 助教授 |
昭和44年1月 |
北海道大学農学部助教授 |
昭和46年4月 |
同上 教授 |
平成5年4月 |
北海道大学農学部長 |
平成7年3月 |
平成5年10月 |
(社)植物情報物質研究センター理事長 |
平成7年3月 |
日本農芸化学会功績賞 |
平成7年11月 |
秋山記念生命科学振興財団秋山財団賞 |
平成8年4月 |
北海道大学名誉教授 |
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功 績 等
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同氏の研究は,食品や農作物,野生植物,微生物や昆虫を対象として,農業や生態系に関係する広範な領域にわたり,その達成された業績は斯界で高く評価され,すでに日本農芸化学会功績賞,秋山財団賞の栄誉に浴しております。
研究内容を一部要約いたしますと:食品の香味成分の分析,その生成機構の解明,生理的効果の解析に関する研究;農薬や食品添加物等の生体異物の自然界における代謝的運命の追究と代謝反応の解析;人工飼料育カイコの細菌性軟化病発病を手掛りとした桑葉育カイコの健全性維持機構の解明;ワモンゴキブリ性フェロモン様活性物質の本体究明;天然あるいは合成抗菌性化合物や除草活性物質,昆虫の摂食阻害物質の構造と活性の関係の究明;農作物の連作障害や雑草の繁殖戦略に関わるアレロパシー物質の本体究明とその作用様式の解明,雑草制御への利用の試み;植物病原菌のライフサイクルを制御している化学的要因の究明とそれをターゲットとした病原菌の防除の検討;植物が本来備えている防御物質の究明とその生成様式,作用特性の解明と植物防疫への応用の検討,などをあげることが出来ます。
とくに,研究材料として我々の身近な,ハマナス,ヒトリシズカ,ヒヨドリバナ,ヒメジョオン,ノボリフジ,ギョジャニンニク,ビロードスゲ,オオイタドリ,キレハイヌガラシ,アブラナ科やマメ科,アカザ科,タデ科等の栽培種,野生植物を選び,それらの強さの秘密や,特定の生物と強い絆を持っている仕組みを解明し,その原理や機能している化学物質を自然の理にかなった生物制御に応用する手立てを探って来られました。それらの考え方や,研究成果は,21世紀に求められるであろう環境と調和した,低投入持続型で食の安全性が確保された農業の為に極めて重要な示唆と技術的基盤を与えるものと期待されております。
同氏の農学領域における生物化学的基礎研究ならびにその成果の応用展開における顕著な功績に加えて,特に強調すべきことは,昭和63年10月には,新技術事業団(現科学技術振興事業団)の創造科学技術推進事業ERATOプログラム研究プロジェクトの総括責任者に北海道で初めて選ばれ,植物情報物質プロジェクトを推進,外国人博士研究員を含む10余名の研究者を擁して,5年間に渡り農作物を含め道産植物を対象に植物化学的研究を展開されたことであります。その間,積極的に研究の公表・公開を行い,植物生理活性物質研究の意義や重要性について啓発するとともに,国際シンポジウムを開催し,地域ならびに学会に大きな刺激を与えたことは我々の記憶に新しいものであります。
また,同プロジェクトの成果を継承・発展,北海道に植物情報物質研究を定着させるために,同氏は平成5年10月,北海道,恵庭市,科学技術振興事業団,その他民間企業等の支援と期待のもとに,社団法人植物情報物質研究センターを設立され,以来今日に至るまで,理事長として研究指導と運営に携わっておられます。
以上のように,同氏が教育・研究,大型プロジェクトや社団法人における研究推進を通して,生物合理的な農業の展開,低投入持続型でクリーンな農業生産のための基礎技術研究,地域の応用研究の活性化などに果たされた功績は極めて顕著なものであります。
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