《中根昆虫コレクション》
農学研究科昆虫体系学教室 諏訪 正明 |
農学研究科ではこの程,甲虫類(コガネムシ,テントウムシなど)の世界的な分類学者であった故中根猛彦博士の昆虫コレクションの寄贈を受けました。博士の数百編にのぼる論文・著書の基になったコレクションで,日本および近隣アジア地域で採集された約20万点の標本より成っております。約1000点のタイプ標本(新種記載のよりどころとなった標本)が含まれており,この地域の甲虫類の研究には必見のコレクションです。
《生物多様性》と《環境》が21世紀のキーワードとなっていますが,「はじめに言葉ありき」で,対象物に名前が付いてその理解が深まります。「虫の惑星」とも言われるこの地球のさらなる理解のために昆虫分類学の重要性がますます高まっていると言えましょう。100万種の既知昆虫類の約40%は甲虫類であり,本コレクションの価値は極めて高いものがあります。
|
中根猛彦博士
|

中根博士命名のイキオサムシのタイプ標本
|
中根博士は1942年に東京大学理学部を卒業された後,名古屋大学,西京大学(現京都府立大学),国立科学博物館,鹿児島大学,宮崎産業経営大学と職場は変わられましたが,一貫して甲虫類の分類学的研究に精魂を傾けられました。1989年に教職を離れてからも千葉の御自宅で研究を続け,昨年5月に逝去される直前まで論文執筆や若手研究者の指導に余念がありませんでした。この間,1960年には北海道大学より理学博士の学位を授与されております。
貴重な学術資料を安全に保存管理できる施設が国内に乏しいため,その海外流出が問題となっております。本学では北海道大学総合博物館が平成11年度に設置され,資料の散逸を防ぐことも重要な使命の一つとなっております。また,明治29年札幌農学校にわが国最初の昆虫学講座として開設された当教室には約200万点の昆虫標本の蓄積があり,これまで国内外の研究に多大の貢献をしてきました。これらの実績が今回の寄贈に結びついたものであり,御遺族の決断に深く感謝申し上げる次第です。
本コレクションの寄贈を受けるに当たり,丹保総長には感謝状をお出し戴きました。本部事務局ならびに農学研究科事務部には種々のご支援を頂戴しました。厚く御礼申し上げます。
|
|