スラブ研究センターの公開講座も今年で15回目という区切りのよい回数になりました。5月8日(月)から5月29日(月)までの毎週,月曜日と木曜日に,全7回にわたって開かれました。
新千年紀は,社会主義体制が崩壊してからおよそ10年にあたります。この10年間にそれぞれの国が体制移行に向けてさまざまな道を歩みましたが,スラブ・ユーラシア地域に複合的状況が表出し,変革への道程は決して平坦ではありません。新千年紀という節目の時期にふさわしいテーマということで,今回の公開講座ではこの10年間移行期にある国がどのような試練を歩んできたか,また今後の展望に焦点を当てて多面的に分析してみることにしました。
体制移行の牽引国であるべきロシア連邦は「略奪資本主義国家」の相を呈し,健全な国家が再建できず,大統領の指導力に国民は理解と信頼を失いかけていました。国威さえも失いかけていた今年の3月26日,エリツィン前大統領の後継者としてプーチン氏が選出されました。プーチン氏は今回の大統領選を思想の戦いでなく,世代交代の戦いと位置付け,そして過去の政治家から新世代の政治家への選挙であり,改革の夢から改革の実現へと国民に訴えました。公開講座の参加者の多くがプーチン政権誕生が今後経済的にも安定した国になるかに関心を示していたようです。同じように旧ソ連邦の中枢的な共和国ウクライナのクチマ政権の予想外の強さにも大変関心がよせられました。本公開講座のもう一つの特徴は「ホットな地域」を重視したことです。それは,ユーゴスラビアの内戦やロシアのチェチェン戦争,また中央アジアでの「イスラム原理主義」の動向です。これらの問題についてはマスコミを賑わせてきましたから,公開講座参加者にとっても馴染みの地域でもあったようです。しかし,ドラマチックになりがちなマスコミ情報は,このような争いの原因は何なのか,その歴史的,政治的,経済的背景はどうなっているのかといった本質的な問題には触れてなく,それを補ったのが本公開講座であったといえるでしょう。
センターの4人の専任研究員と外部から招聘した3人の専門家によって公開講座が組まれ,これに55名の市民の方々が参加されました。参加された方々の年齢層に偏重が無く,数名を除く殆どの方が全講義に参加し,熱心に聴講されました。また参加者との質疑応答を通しフィードバックがあり,講演者の励みになったと思われます。
(スラブ研究センター)
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中露国境線を説明する岩下講師
熱心に講義を聴く受講生
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