名誉教授 理学博士 朝日 孝氏は,平成12年5月24日(水)午後9時,札幌中央病院において,胃癌のため逝去されました。ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,昭和4年5月11日北海道苫小牧市に生まれ,昭和27年3月北海道大学理学部物理学科を卒業後,昭和31年2月北海道大学理学部助手,昭和42年4月同助教授を経て,昭和58年3月同理学部物理学科数理物理学第一講座担当教授となり,平成5年3月停年により退官され,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
同氏は,永年にわたり,物理学の教育・研究に努め,その間,理学部物理学科と同時に,大学院理学研究科を担当し,教養課程,理学部,大学院理学研究科に属する学生の教育と研究指導に尽力されました。特に,同氏の数理物理的に厳密に定式化された講義やゼミでの指導は学生ばかりでなく若手研究者を強く魅了するものでした。
同氏は,主として物性基礎論の分野で活躍され,その初期には固体内格子振動における不純物による振動モードおよび振動数スペクトルに関して多くの成果をあげ,ランダム系分野の先駆者の一人として高く評価され,それらの集大成の業績である「定差方程式のスペクトル理論(英文)」によって昭和38年3月北海道大学から理学博士の学位を授与されました。同氏は,その後,金属電子系の多体問題へと研究対象を移され,特に,それまで永年未解決とされていた電子線およびX線非弾性散乱実験で観測されるベリリウム・リシュウム等の軽金属の動的構造因子に見られるスペクトル異常の解明に初めて成功するなど,いくつかの質の高い成果をあげられました。
また,学科内にあっては学科長などの種々の委員を歴任し,つねに学科の将来の在り方に目配りを怠ることなく,教室運営に多大の寄与をし,現在に至るまで学科内にその影響を強く残しています。さらに,学内の管理運営にあっては北海道大学評議員・理学部長事務代理および入学選抜調査委員会委員等を務め理学部・教養部にわたる種々の問題解決にも尽力されました。
また,地域における社会活動にも留意され,永年アイスホッケーの分野で活躍され,札幌五輪などの競技運営やジュニア層の育成などアイスホッケーの底辺拡大にも努力を惜しまず,その功績により平成4年度札幌市民スポーツ賞,
道民スポーツ賞,さらに平成12年1月には日本アイスホッケー連盟功労章等を授与されました。
以上のように,同氏は,永年にわたり教育者・研究者として多くの優れた業績をあげ,教育・学術の進歩に大きな貢献をされたのみならず,また,学内外にあってもその高い見識によって広く後進の指導と斯界の発展に多大の功績を重ねてこられました。
ここに,先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。
(理学研究科・理学部)
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