訃報
名誉教授 竹 澤 暢 恒 氏(享年64歳)
竹 澤 暢 恒 氏
 名誉教授 理学博士 竹澤暢恒氏は,平成12年7月31日午後0時49分札幌市のひばりが丘病院にて呼吸不全のため逝去されました。
 ここに生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,昭和12年1月27日北海道に生まれ,昭和34年3月北海道大学理学部化学科を卒業し,引き続き大学院理学研究科修士課程に進学,同36年3月同課程を修了されました。ただちに北海道大学触媒研究所助手に任ぜられ,昭和44年4月北海道大学触媒研究所助教授に昇任されました。その後,昭和46年7月北海道大学工学部合成化学工学科化学反応工学講座に配置換になり,昭和59年1月北海道大学工学部教授に昇任され,同講座を担当されました。平成6年6月には,大学院の改組に伴い,材料・化学系専攻群物質工学専攻材料プロセス工学講座の教授として触媒設計化学分野を担当され,平成9年4月工学部の改組に伴い北海道大学大学院工学研究科教授に配置換になりました。このような大学の重要な変革期を通して,同学科と専攻の中心となられて学生の教育と学科および専攻の発展にも大いに尽くされ,平成12年3月31日限り停年により退官,同年4月に北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 この間,昭和41年には「アンモニア分解反応の機作に関する研究」により北海道大学理学博士の学位を授与されました。また,昭和36年9月から昭和38年10月および昭和42年8月から昭和44年6月までの期間,米国ジョーンズホプキンス大学化学科およびニューヨーク大学化学科において,鉄触媒上の窒素,水素などの吸着状態の研究および赤外分光法による金属酸化物上の有機化合物および大気汚染化合物の吸着状態の研究に従事されました。
 同氏は,本学奉職以来39年の永きにわたり,学部においては反応工学,化学工学熱力学,反応速度論,触媒化学など,大学院においては反応工学特論,触媒反応化学特論などの講義,演習を担当し,学生の教育指導にあたるとともに,専門分野における研究者,技術者の育成に貢献されました。また,学内にあっては理学部,教養部,学外にあっては北海道教育大学旭川校,同函館校,信州大学および広島大学非常勤講師を併任されて,本学部以外の学生の教育にも尽力されました。研究面においては,触媒反応の機構,触媒設計および触媒材料の開発に関する研究を精力的に推進され,多くの優れた業績を残されました。反応機構の研究では,アンモニア合成の素反応速度の決定および化学トラッピング法による吸着状態の解明において数多くの先駆的な成果を挙げられました。とくに,初めて赤外拡散反射分光法を用いてin situ下で表面化学種の反応を追跡し,この方法が触媒反応機構の解明に有用であることを示されました。また,触媒設計に関する研究では,メタノールの合成および変換の機構とこれらの触媒の調製法と高性能触媒の前駆体の選択的合成の研究において顕著な成果を挙げられました。とくに,メタノールの水蒸気改質では,銅系触媒が特異的に高い活性と選択性を有することを明らかにするとともに,触媒前駆体の構造と反応条件下における触媒の状態および触媒特性との間に密接な関係があることを示され,前駆体構造の制御により触媒を高性能化する方法を提出されました。また,改質反応機構とこの反応に対する銅系触媒の特異な機能を解明されました。さらに,白金およびパラジウム系バイメタル触媒という新規触媒材料を見出し,これらと亜鉛,インジウム,ガリウムなどとの合金生成により特異な触媒機能が発現することを明らかにするとともに,これらを触媒とする新規反応を開発されました。同氏は,これら一連の研究成果を多くの研究論文として公表され,いずれも高い評価を得られました。また,東京国際触媒会議プログラム委員,日中米触媒合同シンポジウム日本代表,均一不均一触媒国際会議プレシンポジウム実行委員長など,多くの国際会議,シンポジウムの組織委員,国際顧問委員として運営に参画され,これらの分野の国際交流に貢献されました。これらの業績に対して,平成10年度触媒学会功績賞が授与されました。
 学内にあっては,長く触媒化学研究センター運営委員会委員,同協議会委員,エネルギー先端工学研究センター運営委員会委員を勤められ,工学部にあっては,教務委員長,工学部各種委員会委員などとして同学部の運営に参画され,その発展に尽くされました。学外にあっては,文部省学術審議会専門委員,触媒学会副会長,同理事,同渉外広報委員会委員長,同会員増強委員会委員長,同北海道地区代表幹事,日本化学会北海道支部評議員,同監査,石油学会液体燃料技術委員会委員,化学工学会教育専門委員会委員,通産省アルコール専売事業研究開発調査技術専門委員会委員,同推進委員会委員長などを歴任され,これらの学会を中心とする学術研究組織の発展に大いに寄与されました。
 以上のように,同氏は,その真摯な研究活動と永年の誠実な教育活動を通じ,触媒化学の分野において優れた研究業績を挙げられ,国内外における学術研究の発展に寄与するとともに,多くの優れた研究者および技術者を育成されたほか,学会および学内組織の運営,学術研究の推進などに大いに貢献されました。
 ここに,先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(工学研究科・工学部)