訃報
 
名誉教授 高 田 善 之 氏(享年80歳)
高田善之氏
 名誉教授理学博士 高田善之氏は,かねて病気療養中のところ,平成12年11月2日午前11時25分,逝去されました。
 ここに,先生の生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正10年1月21日札幌市に生まれ,昭和18年3月北海道帝国大学理学部化学科を卒業し,引き続き同大学院に入学,昭和23年9月同大学院(前期及び後期)修了後,同大学理学部研究員を経て,昭和24年6月北海道大学理学部助手に採用されました。同年12月北海道大学工学部講師に任ぜられ,昭和25年10月助教授,その後,工学部に2つ目の化学系学科として新設された合成化学工学科の高分子化学講座担当教授に昭和36年4月に就任され,新しい学科の整備,教育研究の確立に尽力し,同学科の発展に非常な貢献をされ,昭和59年4月停年により退官し,北海道大学名誉教授の称号が授与されました。
 研究面では,有機合成化学と高分子合成化学の分野で,基礎的な研究とともにその工業的応用を重視した広範な研究活動を行いました。縮合反応に対する卓越した洞察によりジアミンと尿素との反応によるポリ尿素の合成の端緒を拓き,その純国産技術による合成繊維として注目されたポリ尿素繊維ユリロンの開発に関わったことから,工業的に応用できる合成法の開発に関心を持たれ,昨今,大学の知的財産を積極的に社会で活用することが求められていますが,同氏は40年ほど前からそのような考えで研究を進めておられました。有機合成に関しては,生理活性をもつベンツイミダゾールやイミダゾリンの合成,グアニジンおよび関連化合物の反応など複素環化合物の反応についての基礎的な研究を農薬および高分子材料の防カビ剤の合成へと展開し,また,合成した含窒素化合物の分析に関連してキルダール窒素分析法の改良研究にまで発展させました。さらに,有機合成における実用触媒の探索的研究からイオウと塩素による芳香族二塩基酸塩化物の合成や微量触媒によるフリーデル・クラフツ−ケトン合成によってポリエステル原料およびカプロラクトンを基礎原料としたシアン化カリとの反応によるγ−アミノヘプタン酸の合成,アンモニア水との反応によるカプロラクタムの合成によってポリアミド原料など多くの高分子原料の新合成法を開発しました。高分子合成に関しては,環化重合における反応制御の研究によって大環状の環化重合体の合成法を開発しました。これらの研究の成果は多数の論文として公表され,その業績は学術の進展に大きく寄与しました。
 同氏は,常に実験台に向かい,実践的に学生を牽引するのを変わらぬ姿勢とし,このような姿に惹かれて学生が集まり,研究の本質を体得していました。また,実験台周辺を教育の場とし,化学の面白さ,研究の奥深さ,科学の社会への貢献などを親しく説く姿は学生を魅了するものでした。化学を学ぶ上での実験の重要さから,学生が一人一人で実験を行える方法として「少量法による有機化学合成法」を考案し,実践,普及に努め,教育の実効を上げました。学問に対する確乎たる考えによる研究指導や講義の厳しさはむしろ好評で,高きに集まる状況でありました。このように多数の学生を熱心に指導し,多くの研究者・技術者の育成にあたられました。
 学外にあっては,専門分野の業績を基にして,日本化学会常議委員,同北海道支部長,高分子学会理事,同北海道支部長,有機合成化学協会評議委員などを務め,これら学会を中心とする学術振興と発展に尽力されました。停年退職後は,さらに8年間,これまでの経験と知識を社会に還元することに意を注ぎ,民間会社において,農薬関連化合物の合成のための研究室の整備と研究者の育成と指導に尽くされました。
 このような長年にわたる教育・研究への功績と我が国の学術振興に寄与された功績に対して,平成7年の秋の叙勲により,勲三等旭日中綬賞が授与されました。
 ここに先生のご冥福を心からお祈り申し上げます。
 
(工学研究科・工学部)