訃報
名誉教授 小池 東一郎 氏(享年82歳)
名誉教授 小池 東一郎 氏
 名誉教授工学博士 小池東一郎 氏は,入院加療中のところ,平成13年1月21日午後2時22分,逝去されました。
 ここに,先生の生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正7年10月18日新潟県に生まれ,昭和18年9月北海道帝国大学工学部電気工学科を卒業し,引き続き同大学大学院(特別研究生第一期)に進学,昭和20年9月に修了の後,直ちに北海道帝国大学工学部電気工学科講師に嘱託されました。昭和22年7月には同助教授,昭和35年4月には同教授に昇任され,電気工学科電力及電力応用学第一講座を,昭和45年4月の講座名称変更後は電力工学講座を昭和53年3月まで担任され,同学科の発展に大きな貢献をされました。
 この間,昭和44年6月から同年9月までは評議員,昭和44年10月から同46年10月までは学生部長として,いわゆる大学紛争に端を発する学内の諸問題解決に精力的に取り組まれ,学内の正常化と改革に尽力されました。また,昭和47年5月から同52年3月までは工学部長事務取扱及び工学部長を併任され,工学部の改革・発展に貢献すると同時に,大学運営の中枢に参画し,北海道大学の発展・充実に寄与されました。停年を前に,昭和53年4月北見工業大学長に就任され,北海道大学を去られましたが,これらの貢献に対して,昭和53年4月には北海道大学名誉教授の称号が授与されました。
 その後,昭和53年4月から同59年3月までは北見工業大学長,昭和60年8月から平成5年3月までは道都大学長に就任されております。
 同氏は,北見工業大学長に就任されるまでの33年余の間,本学工学部及び工学研究科において幾多の学生,大学院生の教育,指導にあたられ,多くの研究者を養成し,大学,産業界をはじめ各界に優秀な人材を送り出されました。
 研究面では,電力工学,電力系統工学及びエネルギー工学の各分野にわたって,多数の著書,論文等を発表され,学会はもとより産業界の進展に大きく貢献されました。第一に,電力系統の事故解析の分野では,不平衡故障時の解析手法を確立し,アーク地絡事故及び多地点の同時事故等を含む複雑な事故状態にも対応できる解析理論を完成されました。また,この理論に基づく電力系統不平衡故障時の高周波共振異常電圧や継電器動作特性の解明等に多大な貢献をされました。これらの研究成果により,昭和34年11月に北海道大学から工学博士の学位を授与されました。第二には,冬期の送電線の着雪現象と,その脱落に起因する送電線の異常現象,いわゆるスリートジャンプ現象の解明に取り組み,現象を支配する方程式群の明確化と解析,ザイルモデルによる模擬実験から,スリートジャンプによる大規模鉄塔破壊事故への進展の背景を明らかにされました。この研究は「難着雪送電線」の実用化に大きく貢献したものであり,学会,産業界において高く評価されています。第三には,電力系統の運用・制御技術の重要性に早くから注目され,昭和38年より,およそ20年余にわたり,コンピューターの機能を十分に活用した「自動給電」の実現に精力的に取り組まれました。特に,水火力発電機群の経済負荷配分,最適起動停止時期の決定,電圧・無効電力制御方策の確立,発電所出力の予測制御,電力系統の安定度余裕指標の確立など,多くの課題に対して先駆的,指導的な研究成果をあげ,誕生間もない電力系統工学が新たな学問分野として確立される過程において特筆に値する役割を果たされました。
 また,同氏の著書「送配電工学」,「電力発生工学」は名著としての誉れが高く,学生はもとより広く電力技術者の座右の書となっています。
 これらの業績により昭和57年5月には第31回電気学会電力賞が授与され,また昭和59年11月には産業教育百年記念教育功績者として表彰されました。さらに平成5年11月には教育研究功労により勲二等に叙され,旭日重光章を授与されております。
 学会活動においても,同氏の卓越した指導力,高邁な人格識見が広く認められ,昭和52年5月から2年間,電気学会副会長を務められたのをはじめ,照明学会北海道支部長,電気学会,照明学会及び火力発電技術協会等の北海道支部評議員,支部理事等を歴任されました。また,日本学術会議においては,研究連絡委員会委員として長年活躍され,昭和50年9月から同53年5月まで第十期会員として日本の学術振興に尽力されました。
 学外にあっては,通商産業省電気主任技術者資格審議会委員をはじめ,文部省学術審議会専門委員,通商産業省産炭地域振興審議会専門委員,同資源エネルギー庁直流送電技術検討委員会委員などを務められました。また,北海道科学技術審議会委員,同副会長,同会長を歴任し,卓越した識見と豊富な経験をもとに同審議会の運営と北海道の科学技術振興に邁進されるとともに,北海道労働基準審議会委員,北海道総合開発委員会委員,同工鉱エネルギー部会部会長,北海道生産性本部常任理事等を歴任されて,学術奨励,産業振興,地方行政等の発展に大きく寄与されました。
 このように,教育・研究面のみならず,北海道大学の管理運営面,さらには北海道の地域振興等にも多大な貢献をされました先生を失うことは痛恨の極みであります。
 ここに先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 
工学研究科・工学部