訃報
名誉教授 永 井 珠 夫 氏(享年72歳)
名誉教授 永 井 珠 夫 氏
 名誉教授永井珠夫氏は,かねて病気療養中のところ,平成13年3月21日午後4時35分ご逝去されました。ここに先生の生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,昭和4年3月6日北海道札幌市に生まれ,昭和27年3月北海道大学理学部数学科を卒業,同年6月北海道大学理学部助手,同34年4月同講師となられ,一般教育課程数学を担当されました。同38年10月同助教授を経て,同44年7月より理学部数学科幾何学講座勤務に就かれました。同54年6月同教授に昇任され,一般教育課程数学を担当し,平成4年3月31日停年により退職されました。また,同年4月,同大学から名誉教授の称号を授与されました。北海道大学を退官後は,平成4年10月より5年間,酪農学園大学の嘱託教授として勤務され,学生の教育指導に当たられました。
 同氏は特に,微分幾何学の研究に力を入れ,数多くの優れた研究業績を残されまた。同氏は,昭和27年北海道大学卒業後,河口商次教授の指導の受け,とりわけ高次元空間の研究に着手されました。その後,桂田芳枝教授の指導の下でリーマン空間の幾何学およびリーマン空間の平均曲率一定な有向閉部分空間に関する研究を専門領域とされました。昭和45年に発表された,ミンコフスキー空間における回転群に関する二つの論文は,当時の微分幾何学の研究者に,同氏の存在を深く印象付けるものでありました。その後,終世の共同研究者となった香城日出麿氏との研究では,桂田教授の指導の下,ある種の超曲面のその包含空間との関係,リーマン空間での平均曲率一定な有向閉部分多様体の諸性質等の解明に成功されました。昭和44年3月には,「リーマン空間の有向閉部分多様体が球に等長であるための条件」の研究に対して,北海道大学より理学博士の学位を授与されました。昭和50年代には,定曲率空間の部分多様体に関する研究に着手され,香城氏との共同研究で,アインシュタイン空間の中の超曲面に対し,桂田教授により得られていた理論の余次元2以上の場合への拡張として,全臍部分多様体についての一連の成果を挙げておられます。
 同氏はまた,日本数学会評議員としてその運営に尽力されるとともに,微分幾何学の北海道分科会の世話人として奔走し,若手研究者の研究の便宜をはかるなど,日本の数学会の発展に寄与されました。学内にあっては,入学選抜制度調査委員,教養課程教育協議会委員など,大学行政に貢献をされました。また,大学紛争後の影響を残す困難な時期に,教養部教務委員長を務められ,教養教育の改善に真摯に取り組み,同氏の温和な人柄と相まって,教養部の教官および学生から広く尊敬を集められました。昭和47年11月には,北海道大学永年勤務者表彰を受章されました。
 以上のように,同氏は30有余年の長きにわたって微分幾何学の研究に専心され,その研究業績によって学術上の進歩に大きな寄与をされるとともに,北海道大学教養課程の数学教育および理学部数学科の専門教育を担当され,学生の教育指導と若手研究者の育成に尽力されました。
 ここに先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 
理学研究科・理学部