名誉教授 佐 藤 敏 一 氏(享年77歳) |
名誉教授工学博士 佐藤敏一氏は,入院加療中のところ,平成13年3月28日午後2時32分,逝去されました。
ここに,先生の生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,大正13年2月26日北海道に生まれ,昭和21年9月東北帝国大学工学部電気工学科を卒業後,本別中学校教諭心得,本別高等学校講師,室蘭工業専門学校講師及び室蘭工業大学附属工業専門学校助教授を勤められました。昭和27年8月通商産業省工業技術院名古屋工業技術試験所に勤務され,この間,併せて岐阜大学工学部非常勤講師を勤められました。昭和42年11月北海道大学教授となられ,併せて室蘭工業大学非常勤講師を勤められ,昭和62年3月停年により退官されました。平成元年4月,北海道自動車短期大学教授となられ,平成4年4月,北海道自動車短期大学電子機械工学科長および交通科学総合研究所所長を勤められて,平成5年3月に退職されました。
この間,同氏は,従来にない新しいエネルギーを用いた精密特殊加工学の確立と発展に関する業績を通じて,永年にわたって精密加工学の教育,研究に努められました。とくに,金属材料の化学的・電気化学的な精密微細加工法に関して先駆的な研究を展開され,その成果は今日の我が国の半導体産業やフォトファブリケーション産業の基礎を築くものとなっております。さらに,レーザ加工やプラズマを利用したエッチングあるいは機能性薄膜形成に関する研究を実施され,これらの成果は半導体やセンサーなどの電子産業をはじめとして,精密微細加工を必要とする多くの産業分野で主要な生産技術として活用されるに至っております。この間,精密特殊加工学に関する先駆的な研究を通じて多くの研究者ならびに技術者の育成に務められ,わが国の精密工学の発展に貢献されました。
写真技術を利用した精密微細加工技術であるフォトファブリケーションに関する研究において特に顕著な業績があり,その基礎であるエッチングによる精密微細パターン形成に関する優れた研究成果によって昭和41年2月に論文「化学的加工法に関する研究」により名古屋大学から工学博士の学位を授与されました。この研究は,当時,黎明期にあった半導体の生産技術として先導的なものであり,その成果は現在の電子産業の隆盛をもたらす要因の一つとなっております。その後,液相反応を用いた精密特殊加工の研究はセンサーなどの基板として用いられるセラミックスなどの非金属材料に精密微細パターンを形成するエッチング技術に発展し,さらには金属微細パターンをめっきによって形成する高速フォトフォーミング技術にまで拡大しております。一方では,グロー放電内の気相反応を用いたスパッタエッチングや機能性薄膜のスパッタ蒸着,プラズマ蒸着など,物理現象を利用する特殊加工技術に関しても我が国における先駆的な研究を実施され,その基礎を築かれました。とりわけ,国産レーザ加工機の1号機を導入して実施した金属・非金属材料の精密微細レーザ加工に関する研究は斯界の草分け的地位を確立し,その成果は永く後人研究者に大きな影響を与えることとなりました。同時に,超音波加工,電解加工など広く特殊加工の他分野においても多くの研究成果を上げられ,これらは多くの著書・論文として発表され斯界から高い評価を受けております。
この間,数次にわたり国際会議において研究成果の発表を行われるとともに,わが国のフォトファブリケーション技術をはじめとする精密特殊加工技術の現状の紹介に務められ,一方では技術視察団団長として欧米の先端技術の吸収,紹介に務められるなど,学術,技術の国際交流にも大きな貢献をされました。
大学運営に関しては,北海道大学において各種の委員会委員及び委員長を務められるとともに,昭和51年度には学生部委員に就任され,大学紛争後期に当たる困難な時期に大学運営に参画されました。この間,卓越した手腕を発揮して事態の適正化に尽力され,大学の正常な運営に多大の貢献をされました。北海道自動車短期大学においては電子機械工学科の設置に関わり,企画立案から関係官庁との折衝まで務められて,我が国の産業構造の一角である電子機械産業に関する私学における技術者育成の基盤を築かれました。その後,同大学において,自ら新設なった電子機械工学科長を勤められて学科の順調な立ち上げに貢献されるとともに,併せて同大学において交通科学総合研究所所長を勤められるなど私学の発展にも大きく貢献されました。
この間,社団法人精密工学会の運営にも大きく貢献されました。昭和46年4月から昭和50年3月まで北海道支部長を務められるとともに,この間7年間にわたって理事を歴任されました。昭和55年4月に副会長に就任され,学会全体の活動に関する企画立案および運営に参画されるとともに,学術講演全国大会の実行委員長も務められました。これらの貢献によって,平成元年に名誉会員に推挙されております。
このように,教育・研究面のみならず,北海道大学の管理運営面,さらには産業界の振興にも多大な貢献をされました先生を失うことは痛恨の極みであります。
ここに先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
(工学研究科・工学部)
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