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梅田安治名誉教授(農学研究科)に日本農学賞及び読売農学賞

 このたび名誉教授梅田安治氏(農学研究科)が日本農学賞及び読売農学賞を受賞しました。
 同氏の長年にわたる農業土木学に関する一連の優れた業績と学術の発展に寄与した功績に対して贈られたものです。
 同氏の受賞にあたっての感想と功績等を紹介します。
○梅 田 安 治(うめだ やすはる) 氏
○梁 川   良 氏
 
 去る4月5日に,日本農学賞(平成13年度)と読売農学賞(第38回)を受賞いたしました。「北海道における農業生産基盤と農村空間形成に関する研究」として総括したこれまでの私の研究課題に対するものです。日本農学賞は大正14年の創設で,私の賞状番号は393でした。農業土木学会からの推薦にあずかり,日本農学会の評議委員会で選考されたものです。また読売農学賞は,日本農学賞受賞者に対して読売新聞社から授与されたものです。これまでの雑多とでもいうべき一連の研究を総括的に評価していただき,誠に光栄に存じております。
 北海道大学農学部を卒業して助手に採用されたとき,恩師権平昌司教授から「勉強は自分でするものです」と一言の指導があり,それが今日までの私のエネルギー源だったと思います。土地改良学が実学的要素を多くもつものであること,北大としては農科大学創設時からの最も古い講座でありながら,その歴史的経緯から土地改良関連の講座が他の大学に比べて少ないこと,食糧増産が課題の時代であったことから,研究課題とともに広範囲にわたる現実的技術的課題への対応も求められました。これらのことは,研究は兎も角として教育面において過大な負担で,その成果に悩んだ時期もありました。
 そのような中で,泥炭地開発の技術的課題や,湿潤寒冷地における農地の宿命的課題としての排水,冷水温,土壌侵食等の問題に関わってきました。また食糧増産の時代的背景から農地はその生産性のみによって評価されていましたが,国土としての環境・生態的保全に関心を向けるとき,農地・農村もその空間自体が評価されるべきであるとして,風土論的に北海道の農地・農村の景観を論じ,先に農業土木学会学術賞を授与されました。
 今回の受賞は,農地の生産性から空間性までの一連の研究を北海道を主フィールドとし,またそれを基準対照とすることによって広く展開してきたことが評価されたものと理解しています。長年にわたる研究を進捗させるにあたっては,多くの方々のご支援を賜わり,とくに土地改良学講座の教官をはじめ大学院修了,学部卒業の諸君の大きな協力を得てきました。今回の受賞は,土地改良学講座の長年の成果に対するものであると理解し,栄誉であると感激しております。
 
略 歴 等
 
生 年 月 日昭和7年5月8日
出  身  地札幌市
昭和30年3月北海道大学農学部農業物理学科卒業
昭和30年7月北海道大学助手
昭和38年3月農学博士(北海道大学)
昭和38年6月北海道大学農学部助教授
昭和61年4月北海道大学農学部教授
平成3年8月北海道大学評議員
平成7年8月
平成8年3月北海道大学停年退職
平成8年4月北海道大学名誉教授
平成8年4月農村空間研究所長
平成9年7月農業土木学会学術賞受賞
平成11年7月地盤工学会功労賞受賞
 
功 績 等
 
 梅田安治氏は,北海道での水田農業と,その風土に適応した畑作・酪農の展開のため,冷水温,土壌凍結,過湿といった寒冷湿潤条件の克服,広く存在する泥炭地の農地利用と保全,それらの総括とでもいうべき農村景観評価とその手法に至る広汎な課題に取り組み,多くの提言をされてきました。
 泥炭地は,その生成過程からいって寒冷湿地にみられる特殊土ですが,平坦で比較的水利の便が得やすいことから水田利用が計画されやすく,第二次大戦後には農地開発の対象とされました。ところが土壌としてみた泥炭はきわめて特異であり,泥炭地の開発利用は当初困難をきわめたのです。その泥炭の特異な水分保持機構を明確にし,泥炭地の農地利用に不可欠な排水手法を樹立しました。また,泥炭地の地下水位変動と地盤沈下現象の解明を進めるとともに,その保全策を具体的に示しました。これらの検討事項は,生態的多様性に恵まれた自然環境としての泥炭湿地の保全にも適用されています。
 第二次大戦後の食糧増産至上の時期,水田は水利的,水温的に不利な地域にまで拡大されていきました。その対策として水田取水を間断的に行い,水田水温のサイクル的変化のなかで高水温の水を取水する手法が有利であることを明らかにしました。
 一方,畑地にあってはその多面的経営から,また酪農地域では家畜ふん尿処理の省力化と農地への資源還元のため,灌漑手法の適用を考えられました。これは,環境問題への対応とともに,大規模酪農地域におけるふん尿灌漑の基礎を確立した業績として,高く評価されています。また寒冷湿潤地域の農地では,排水に意を用いる必要があります。大規模圃場の排水,とくに暗渠排水では,排水効果の発現に施工状況が大きく影響することを明らかにするとともに,暗渠土管の表面に溝をつけることによって排水効果が高まることを見いだしました。
 さらに農地を生産性だけで評価するのではなく,その空間的存在自体をも認めるべきであるとの農村空間論を提示しました。
 同氏は,寒冷湿潤地域での安定した農業展開と地域発展のために農業基盤の各種整備手法を確立し,また農地保全と自然環境保全のための実践的研究を行いました。農村空間整備の新たな展開に関して重要な示唆を与える一連の研究業績は,高く評価されるものです。
 
(農学研究科・農学部)