全学ニュース



平成11年度から発足する科学研究費補助金・特定領域研究の研究領域設定
上田一郎教授・山崎厳教授の研究領域(課題)が選定される。


 このたび,平成11年度より発足する科学研究費補助金特定領域研究(A),(B)の研究領域(新規分)が全国で(A)15件,(B)42件決定しました。この中で上田一郎教授(大学院農学研究科)を領域代表者とする「植物―病原微生物の分子応答機能の解明」(研究期間:平成11年度から平成16年度までの6年間)が特定領域研究(A)に,山崎巌教授(大学院工学研究科)を領域代表者とする「分子連鎖配列系のコヒーレント光化学反応とその制御」(研究期間:平成11年度から平成13年度までの3年間)が特定領域研究(B)に選定されました。
 特定領域研究は,平成10年度に重点領域研究を廃止して設けられた研究種目で,我が国の学術研究分野の水準向上・強化につながる研究領域や,環境問題,難病克服など地球規模での取組みが必要な研究領域を特定して,一定期間(3〜6年),研究の進展等に応じて機動的に推進し,その研究領域の研究を格段に発展させることを目的としています。

現在進展中の研究領域
 特定領域研究(A)

領 域 代 表 者
研 究 領 域 名
研 究 期 間
大学院工学研究科・教授 長谷川 英 機 「単電子デバイスとその高密度集積化」 平成8年度〜平成11年度
大学院理学研究科・教授 魚 崎 浩 平 「構造規制機能界面の構築と電極反応」 平成9年度〜平成11年度
大学院薬学研究科・教授 稲 垣 冬 彦 「多元的情報伝達とその制御における蛋白質相互作用の役割」 平成10年度〜平成13年度
大学院理学研究科・教授 高 畑 雅 一 「微小の脳システムの適応的設計」 平成10年度〜平成13年度

 特定領域研究(B)

領 域 代 表 者
研 究 領 域 名
研 究 期 間
電子科学研究所・教授 井 上 久 遠 「フォトニック結晶の開発と輻射場の制御」 平成10年度〜平成13年度

 以下,平成11年度に選定された研究領域(課題)の概要を紹介します。

(総務部研究協力課)

1 領域代表者:上 田 一 郎
        (大学院農学研究科)

〔研究領域名〕

 植物―病原微生物の分子応答機能の解明
   ―耐病性植物の創出に向けて―

植物が本来持っている耐病性のメカニズム

 病原体の攻撃に対して,植物が感染するか,あるいは抵抗性を発揮して,感染を阻止するかを決定づける分子機構を解明して,来る21世紀に想定される人口増加に伴う食糧問題に備え,耐病性分子育種への指針を示すことを目的とする。
 種々の病原微生物の攻撃にさらされている植物は,様々な防御機構を備えている。植物の典型的な防御機構として,感染部位における過敏感細胞死があげられる。感染した組織の周辺細胞では,非常に速い時期に,細胞膜部位での活性酸素が産生されて,過敏感反応が始動する。同時に,一連の防御反応関連遺伝子(PRタンパク質,フェノールプロパノイド合成系遺伝子,キチナーゼ,グルカナーゼなど)が活性化される。このような反応は,植物が病原体を異物として認識し,シグナル伝達系を通じて防御機構を作動させた結果と理解されている。また過敏感反応に限らず,病原微生物側の因子がどのように異物として認識されるか,あるいは感染が成立するために宿主因子がどのように関与しているのかを理解することが防御応答機構を解明するために重要である。
 防御応答に関して,異物として認識される因子や,これに応答する植物体の遺伝子発現の研究が現在急速に進展しているが,どれも断片的な知見にとどまっており全容の解明が急がれる。本研究では,植物が病原微生物を認識し,シグナル伝達系を通じて,種々の防御応答が発現する一連の分子機構を解明したい。
 植物の耐病性を増強することは,農薬使用を軽減した環境保全型農業を目指す上で,欠くことが出来ない。このための戦略として,植物が本来,または潜在的に持っている,病原微生物等の異物を認識して防御応答を発現する過程を解明し,これを増強・利用することが望まれている。また,病原微生物を,植物が異物として認識する外部因子としてとらえると,それに対する分子応答機構を解明することで,他の外部ストレス一般に対する植物の分子応答機構の基本的な仕組みを理解することができる。

病原微生物に対する植物の応答
病原微生物に対する植物の応答

2 領域代表者:山 崎   巌
        (大学院工学研究科)

〔研究領域名〕

分子連鎖配列系のコヒーレント光化学反応とその制御

分子連鎖配列系によって単一量子素子をつくる

 種々の反応分子が反応経路に沿って接近して並べられた分子配列系では,分子間相互作用が大きく,光励起によって誘起された電子移動,励起子移動などの反応が量子論的な波動の伝搬として超高速(フェムト秒・ピコ秒)で起こり,また位相が保たれたコヒーレント過程として起こる。このような分子連鎖配列系に特有な光量子ダイナミクスは,われわれの身の回りで起こっており,植物の光合成反応中心や視覚器官における連鎖反応にみることができる。これらの生体系では高度に組織化された分子配列構造をもっており,そこで起こる反応の機構を理解するためには従来の理論を超えた新しい概念が必要とされる。この問題はこれからの物理化学・分子科学の中心的な研究課題であるとともに,21世紀における新しい分子素子の原理を与えるうえで重要な意味をもっている。
 本研究課題は次の研究項目から成る。
(1)人工的に合成・集積された分子連鎖配列系をつくる。すなわち合成組織化分子,デンドリマー,DNA鋳型1次元分子配列をつくり,様々な幾何学的構造をもつ分子配列系における超高速コヒーレント光化学を調べる。
(2)生体分子配列系,すなわち植物細胞や単離蛋白に含まれる分子連鎖配列系をとり出し,そこで起こる超高速コヒーレント光化学特性を調べる。
(3)電場効果,人工および生体分子配列系の反応が外部電場によってどのような影響を受けるか,について,電場変調吸収・蛍光分光法によって調べる。この問題は分子配列系のコヒーレント光化学を理解するうえで重要な意味をもち,かつ新しい分子素子の設計のためにも基本的な研究となる。
(4)超高速分光法と量子干渉計測法による反応の追跡。超短パルスレーザーによる超高速分光計測法およびマイケルソン干渉計による量子干渉計測法に基づいて反応機構を調べ,分子連鎖配列系に特有なコヒーレント光化学反応特性を明らかにする。
 本研究の成果は,従来の均一分散系の化学反応理論とは本質的に異なる反応機構を確立し,新たな原理に基づく分子素子,すなわち量子コンピューティング素子,光エネルギー変換分子素子を生み出す方向へ展開される。

分子連鎖配列系のコヒーレント光化学反応とその制御

戻る全学ニュース目次へ北大ホームページへ北大ホームページへ