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・・・・【 地 震 】・・・・ | 災害をいかに予知し防ぐか, 災害からいかに復興するか,人類は知恵をしぼってきた。 人類とはそうして災害から生き延びてきた生物にほかならない。 いま大学が,災害と闘う人知の到達点を発信する。 |
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しかし,私たち地震学者にとって,北海道南西沖地震(1993年)は,いわば不意打ちだった。なぜここに大地震が起きたのかについては定説がなかった。 じつは,北海道南西沖地震の10年前に日本海中部地震が秋田の沖に起きていた。その日本海中部地震のあとで,私たちが開発した海底地震計を使った余震観測を行った。余震を観測することによって,本震を起こした地震の性質が分かる。余震はケガのあとの傷口の「うずき」のようなもので,遅ればせながらケガそのものの研究になるのだ。 この結果,日本海中部地震は日本海岸の沖に沿ってプレートの押し合いが始まっているために起きた疑いが強まった。地球の歴史から見れば最近始まった押し合いである。そして北海道南西沖地震が起きた。私たちは18台の海底地震計を使って,再び余震観測を行った。この結果,やはりこれらの大地震は,いままでは知られていなかったプレートの押し合いが起こしたということが分かった。最近では多くの学者が北海道の日本海沖でのプレートの押し合いを信じるようになっている。 では,どんなプレートが押し合っているのだろう。日本全体はユーラシアプレートの東の端に載っていて,そこに向かって太平洋プレートやフィリピン海プレートが潜り込んでいると思われていた。しかし北海道や東北日本のすぐ西にプレートの押し合いが始まっているのならば,そこを境にして別々のプレートが押し合っていなければならないはずだ。
日本で起きる地震の85%は海底で起きている。地震災害の低減の研究のために私たちは日本周辺海底で地震観測をしている。また,同じ研究の一環として,北部や中部の大西洋に北大の海底地震計を運んで研究をしている(写真1)。この観測はもう十五年ほど毎年続けている(図2)。大西洋の底には大西洋中央海嶺というものが南北に走っていて,この海嶺こそがユーラシアプレートと北米プレートを生み出しているからである。 海嶺で何が起きているかを知る手段のうち最も強力なものは海底地震計で地震を観測することである。陸上と違って,海底ではプレートの動きを直接測る手段はない。一方,地震活動とはプレートの動きの直接の反映だから,海底で地震を観測することがプレートの動きを調べるもっとも有効な手段なのである。プレートが生まれて動くときには大小さまざまな地震が起きる。どこにどんな地震が起きるのかを精密に調べることが,地下に起きているドラマを解くカギなのだ。また海底地震計は地下構造を探るための精密な道具でもある。人体の透視をX線で行うように,エアガンなどを使った人工地震や自然に起きる地震を「X線源」に使って,地下の構造を詳しく研究することができる。じつは欧米各国には信頼性の高い海底地震計がないために,私たちの海底地震計のように,ひとつの観測に20〜50台規模の海底地震計を投入するという有効な手段が使えなかったのだ。 私たちが大西洋で研究しているのは,プレートがどう生まれてどう沈み込んでいくか,そのときにどんな地震がどう起きるのかという一連の研究である。日本に起きる大地震を研究するには一見,直接ではないように見えるが,地球の向こう側を調べなければ,こちら側も分からないというのが,地球の大きさを相手にしなければならない学問なのである。 |
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理学研究科教授 | |||||||||||||||||
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