特集 北大のキャンパスから水と緑のまち札幌へ
シマフクロウのいるキャンパス

北方生物圏フィールド
科学センター
植物園 助手


加藤 克
Kato Masaru

       北大キャンパスで収集された資料
 北方生物圏フィールド科学センター植物園・博物館は、明治10(1877)年に開拓使が設立した札幌仮博物場を前身とする博物館で、120年以上にわたり北海道大学のスタッフ・学生の協力の下、資料・標本を収集・管理、提供し続けています。動物・歴史・考古・民族・絵画など、所蔵資料は現在約5万点にのぼり、この中には、「ブラキストン線」で著名なブラキストンが収集した鳥類標本や、絶滅したエゾオオカミの剥製など、世界的にも貴重な標本群が含まれています。このような資料は、さまざまな形で利用、紹介されているので多くの方はご存知でしょう。今回は、「キャンパスの自然」をテーマに、キャンパス内で採集された資料について紹介し、その意味について考えてみたいと思います。
 所蔵標本のうち、キャンパス内で収集・採集された資料は、考古資料を除くと100点ほどになります。この10年の間に収集されたものでは、絶滅危惧種に指定されているオオタカや、エゾフクロウ、カワセミなどがあります。オオタカは営巣地の問題などはありますが、現在でも札幌付近で観察されていますし、エゾフクロウも冬季に植物園内で観察されることもありますから、それほど珍しいものではありませんが、これらの鳥たちがキャンパス内で死亡し、収集されているということは、現在のキャンパスが動物たちにとって住みやすい環境であることを意味しています。しかし、これらの多くは窓にぶつかったり、凧糸を足に絡ませた状態で木にぶら下がっていたりしたものが収集されたもので、人間と動物との共生の難しさも物語ります。
 このように、北大のキャンパスは自然に恵まれたものといえますが、より古い標本を検討してみれば、周辺の環境も含めて、もっと豊かであった時代があることがわかります。

       シマフクロウのいるキャンパス
 1940年代に理学部付近でシマフクロウが採集され、その標本が博物館に所蔵されています(写真1)。シマフクロウは現在ごく限られた地域でしか生息が確認されていませんが、当時は北大のキャンパスにもやって来ていたのです。この採集には、農学部の先生と理学部の先生とでどちらが撃ち落すかでもめた、などという逸話が残されているように、それほど珍しいものではなかったのか、また、珍しいものだったからこそ採集しようとしたのか、記録が少なくよくわかりません。しかし、現在ではその姿を見ることも声を聞くこともかなわないシマフクロウが住むことができる環境がキャンパス付近に残っていたことを、この標本は語ってくれます。
 キャンパスの川や池にシマフクロウの食料となる魚が住むようになっても、キャンパス周辺の環境がシマフクロウの住むことのできる環境にならなければ、その姿を見ることはできないでしょう。その目標を否定するわけではありませんが、それとともに過去の状況、現在の状況、そしてこれからの状況を記録しておくこともまた重要なことと思います。標本が博物館に残されているからこそ、現代に生きる私たちもキャンパスの自然の深さ、歴史を知ることができるのです。

写真1 シマフクロウの標本 ラベルの文字が薄れ、採集年は肉眼では確認できない。12月5日採集。

       歴史の証人としての博物館資料
 今回は「キャンパスの自然」をテーマとする資料について紹介しましたが、博物館という機関は、あらゆる学問の証人ともいうべき資料を収集・管理し、また古い時代の記録や聞き取り、利用されることによる新たな知見などを通じて付加価値をつけ、多くの利用者に提供し続けることを目指しています。皆さんも斃死した動物を見つけたり、研究に用いた標本の保管場所に困ったりしたときは、近くの博物館に問い合わせてみてください。130年前にはエゾオオカミを毒殺・処分していたのに、現在では貴重資料として扱われているように、それが未来の人々にとって貴重な財産になることもあるのですから。

写真2 重要文化財に指定されている、明治18(1885)年設置の収蔵庫の内部。明治時代から二重構造の収蔵ケースを利用して資料は良好な状態で保存されており、現在も利用中だが、スペースや耐火、耐震などの問題は抱えている。


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