学生の指導について(概要)
はじめに
学生に対する修学指導,生活指導について,全学的に教員,事務職員と学生のかかわり方, 全学と部局の指導体制,窓口の在り方などを早急に検討する必要があることから,次の調査を実施した。
1) 学生指導に関し初年次学生,各学部長を対象としたアンケート調査2) 就職指導に関し卒業年次の学部学生,修了年次の修士課程学生を対象とした意識調査 |
学生に対する修学指導を含めた生活指導全般については,現在のところ,全学的な体制が必ずしも整備されているといえない状況にあるという認識に基づき,全学的に,修学指導,生活指導等における教員,事務職員と学生のかかわり方,全学と部局の指導体制,窓口の在り方などを早急に検討する必要があった。
さらに,学部一貫教育に移行後,全学部で休学者や退学者が増加する傾向にあり,その原因を明らかにすることが学部一貫教育体制下の学生指導上極めて重要と考えられた。特に休学者や退学者が初年次に集中していることから,今回は初年次学生(平成10年度の1年次学生)を中心に次のアンケート調査を実施した。
1)
学生指導の在り方に関する初年次学生を対象にしたアンケート調査2)
初年次学生の修学指導や厚生指導に各学部がどのように取組んでいるのかを知るための全学部長を対象にしたアンケート調査また,最終学年の学部学生と修士課程学生を対象に,就職に対する意識調査を実施した。
第1章 初年次における学生指導の現状と問題点について
初年次学生へのアンケート調査結果から,次の事項を提言
1) クラス担任制について2) 学部教育の目的,履修等の指導について3) 高校における未履修科目の特別指導について4) 転部,再受験について5) 学部情報提供の改善について6) 新入生合宿研修について7) 修学・生活相談機関について |
T
学生指導に関する点検評価の視点1
学部一貫教育への移行に伴う学生指導対策平成7年度から実施された学部一貫教育体制の下で,部局を中心に学部専門教育への移行前の学生の修学・生活指導に関して,次の諸点が取り組まれた。
1)
クラス担任の制度化2)
学部教育の目的,履修等についての指導3)
学部情報提供の改善4)
新入生合宿研修の実施5)
修学・生活相談等の改善・強化6)
シラバスの改善学生指導に関する点検評価の視点は,こうした改善・強化策がどのように有効に機能しているか,また十分に機能していないとすれば,今後どのような改善方策をとる必要があるのかを探ることにある。
2
学部一貫教育以降の修学指導上考慮すべき学生生活の変化今回の点検評価項目にある休学者・退学者・留年者の状況は,年次別に見ると,学部一貫教育体制に移行後,年を追う毎に増加していることが明らかである。この点を点検評価の視点として,学部一貫教育体制の下で,修学・生活指導の在り方を探ることが必要になる。
3
学生指導の点検評価課題これまで述べた点を踏まえて,初年次学生を対象にして,以下の6つの柱にそってアンケート調査を実施した。
1)
学部・系選択のための情報提供の在り方2)
入学時の修学指導の在り方3)
学部帰属意識を高める方策4)
全学教育の在り方と課題5)
修学意欲を喚起するための方策6)
困難に直面した時の援助方策
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アンケート調査の目的と方法及び実施の概要1
調査の目的1)
学部一貫教育体制の下で,学生がどのような状況にあり,修学・生活指導に何を望んで いるか。2)
アンケート調査に基づき,修学・生活指導の在り方にどのような課題があるか。
2
調査分析の方法1)
学部・系ごとに学生の動向にどのような特徴があるか。2)
学部志望と修学意欲の動向に関連があるか。
3
調査実施の概要1)
対 象 初年次学生全員 2,545名2)
調査時期 平成10年10月3)
配付・回収方法 配付をクラス担任に依頼,提出は学務部教務課又は学部教務掛4)
回 収 率 39.1%(994名)
V
アンケート調査の結果と考察1
大学・学部・系の志望と満足度1)
大学志望順位とその動機北大を第1志望とした学生は,77.8%であった。
北大を第1志望にした理由の3分の1強は,学部・学科への志望であり,北大そのものの魅力は校風よりも,北海道へのあこがれにあるようで,その傾向は特に道外出身者に強い。
また,北大入学後の満足度では,「満足している」学生は63.2%であり,文学部,教育
学部,工学部,農学部では満足度は60%以下となっている。不満の理由は「期待していた内容とは異なった」が過半数を占めていた。2)
学部・系の志望順位と満足度学部・系を第1志望とした学生は,76.4%であった。
全体的な傾向としては,文系,医系などでは志望も満足度も高いが,学部で系別に募集している理学部,工学部,農学部では,系によって志望と満足度にばらつきがある。
3)
学部への帰属意識学部への帰属意識を感じている学生は全体の52.1%であり,その大半が「専門科目を受講したとき」を理由に上げている。
現在の学部が第1志望であったかどうかは帰属意識にほとんど関係ないことがわかり,専門科目の受講を含む初年次教育システムの在り方に関係があるように思われる。
4)
学部・系別募集の賛否初年次学生の意見は,「反対」がやや少ないながら「賛成」又は「どちらともいえない」に
ほぼ3分されている。「賛成」の理由では,「専門分野を早く決め準備する」,「やりたいことは高校生で決められ
る」が多く,一方,「反対」の理由では「入学後志望が変わるかもしれない」,「専門分野は高校生では決められない」であった。5)
受験情報源と有効性情報源としては「エルムの学園」(北大案内),「学生募集要項」,「民間の受験情報誌」などとなっており,情報の有効性としては,「十分であった」23.2%,「あまり十分ではなかった」59.8%,「全く不十分」15.9%であった。
2
学部志望と修学指導の受けとめ方1)
学部の教育方針・教育内容の浸透度93.0%は説明があったと認識していた。説明が「理解できた」学生の割合が70%以
上の学部は,法学部,経済学部,医学部,歯学部,薬学部,獣医学部の6つであった。逆に 「理解できなかった」者の割合が40%を超す学部・系は,理学部数理系・物理系,工学部 情報エレクトロニクス・社会工学系,農学部農・総合系の5つであった。2)
学部・系志望と学部教育の受け止め方説明を受けた学部教育の内容が,考えていたものと同じかとの問に,「どちらとも言えない」
が過半数を占めたが,これは初年次のために,まだ学部の教育内容が判断できないことの反映のように思われる。3)
新入生合宿研修の意義参加してもっとも印象に残ったことは,6割以上の学生が友人ができたことを上げている
が,「先生と話したこと」を上げた学生が13.1%あり,初年次学生にとっては教員と触れ合う貴重な機会であると思われる。
3
初年次教育システムに関する意見1)
学生の初年次教育システムの受け止め方「良い制度であり,今後も続けるべき」とする者が33.9%,「よい制度だが,実際の教育内容には不満」が50.6%,「よい制度だとは思わない」が15.3%であった。制度そのものを肯定的にとらえている者が,85%近くに上がるが,学部により受け止め方に大きな差異がみられる。システムを肯定的にとらえ,否定的な意見が少ない学部は教育学部,法
学部,経済学部,理学部数理系・化学系,医学部,水産学部であるが,逆に否定的な意見が多い学部は文学部,工学部材料科学系・社会工学系,農学部,獣医学部である。2)
学部専門科目への要望最も多かった要望は「わかりやすい講義に心がけてほしい」37.1%で,「学部専門科目
をもっとふやしてほしい」24.3%などの順となっている。前者(わかりやすい授業)が 40%以上であった学部・系は,経済学部,理学部数理系・物理系,薬学部,工学部情報エレクトロニクス系・物理工学系,水産学部であり,後者(もっとふやしてほしい)が30% 以上の学部は,法学部,医学部,農学部農・総合系,獣医学部であった。3)
高校における未履修科目の特別指導に関する要望特別指導の必要性は理系,医系学生の81.9%で強く要望されている。この問題は切実であるが,特別指導を行う体制をとれば問題が解決するほど単純ではなく,選抜方法から検討しなければならない。
4)
総合講義の参加と評価平成10年度に初めて実施した総長等による総合講義は,全体では初年次学生の4分の1が受講しており,受講者の約半数(47.5%)が「受講して良かった」と回答している。
4
修学意欲の変化と休学・転部等の意向1)
修学意欲の変化とその理由「入学以前と変わらない」38.6%,「入学以前より向上した」10.3%,「入学以前
より低下した」44.9%,「意欲が全く無くなった」5.5%であった。修学意欲が「変わらない」又は「向上した」学生が50%以上を占める学部は,法学部,医学部,歯学部,薬 学部,工学部情報エレクトロニクス系・物理工学系,獣医学部,水産学部の8学部・系にと どまり,他の学部・系では修学意欲が「低下した」又は「全くなくなった」学生が過半数を占めていた。中でも,理学部数理系,農学部農・生物系ではその割合が60%に達している。これらの学部・系では,学部・系における修学・生活指導上に問題があるといわざるを得
ない。2)
修学意欲の変化と休学「願望」修学意欲低下の理由の7割は,全学教育の在り方や方法に関する不満に基づいているが,「高
校未履修科目の講義についていけない」7.0%という理由は,中でも深刻である。休学「願望」と修学意欲の低下を関連させてみると,「入学以前より低下した」学生では37.7%,「意欲が全く無くなった」学生では65.5%にも上がり,修学意欲の低下が休学動機と結び付いていると見ることができる。
休学の相談相手としては,「特にない」57.7%,「友人」25.4%を上げており,
大学として有効なかかわりをしているとはいい難い状況にあると思われる。3)
経済的に困った時の相談相手「誰にも相談しなかった」19.1%
,「友人」13.2%,「事務窓口」3.3%,「クラス担任」0.9%などであった。4)
学部・系志望と転部・再受験指向「転部・再受験を考えたことがある」学生が全体の約40%を占めており,その理由は「もともと志望した学部ではなかった」,「期待したものと違った」,「自分の求めているものが見つかった」などである。
5
学生指導機関・施設に関する意見・要望1)
保健管理センターの認知・利用率と要望認知度は96.5%で,「知らない」と答えた学生は3.2%であった。
修学意欲との関連をみると,「入学以前と変わらない」「入学以前よりも向上した」学生層では,利用率は平均を上回っているが,「入学以前より低下した」「意欲が全く無くなった」
学生層では利用率が低下し,「意欲が全く無くなった」学生層では認知度も下がり,「知らな い」と回答した学生が10%弱になっている。要望としては,「受付時間を拡大してほしい」がもっとも多く42.3%であった。
2)
学生相談室の認知・利用率と要望認知度は63.9%で,「知らない」と答えた学生は35.6%にのぼる。
修学意欲との関連でみると,「入学以前より向上した」学生層は認知度74.5%,利用率
4.9%と高いが,「意欲は全く無くなった」学生層は認知度45・4%,利用率1.8%と 低い。最も利用してほしい状況にある「意欲は全く無くなった」学生たちが,あまり利用していないばかりか「知らない」が半数を超えている点は留意する必要がある。
要望としては,「もっとPRしてほしい」が最も多く31.2%であった。
3)
クラス担任の活用学部一貫教育に移行して以降クラス担任が配置されるようになったが,その利用については1%前後に過ぎないが,「必要があれば相談したい」と回答した学生が58.4%いる。
クラス担任への要望をみると,全体では45.7%が「接する機会を多くしてほしい」としているが,51.8%の学生は「特にない」としている。
6
大学の情報提供1)
公用掲示板の見やすさ掲示内容の理解度を見ると,80%近い学生が掲示内容をほぼ理解しているが,11.9
%が「非常にわかりにくい」としている。2)
学生向け広報の利用状況「学生生活の手引き」の活用状況をみると,8割以上の学生に読まれている。
また,「学生生活の手引き」が役に立ったかどうかの問に対して,「非常に役に立った」7.2
%,「大体役に立った」71.2%となっている。
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まとめと提言1
修学・生活指導上の問題点1) 北大及び学部・系を第1志望として,希望を持って入学してきている学生が80%近くあるにもかかわらず,わずか半年の間にその満足度は60%になり,「修学意欲が低下した」,
「全く無くなった」と回答した学生が50%に達している現状は,数字に表れている以上に 深刻な事態である。学部一貫教育実施以降に取り組まれたさまざまな改善の努力が,必ずしも有効に機能しているとは言えない状況にあると考えられる。
2) 修学意欲の低下・喪失の理由としては,全体の70%の学生は「教育熱心でない教員が多い」「講義が高校の延長でおもしろくない」「高校未履修の科目についていけない」など教育
に携わる側の問題を上げており,各学部・系が責任をもつ全学教育の現状に関連していると考えられる。3) 実際に「休学」した学生は,「休学したい」と思った学生33%の2割程度であるから,初年次学生全体から見れば5〜6%に過ぎないが,現に休学している学生はアンケート調査の
対象となっていないことを考慮すれば,決して無視できない数で存在していると考えるべき である。4) 転部・再受験の理由は,「もともと志望した学部ではなかった」という過去の選択のズレと,
「期待していたものと違った」「自分の求めているものが見つかった」という入学後に新たに 生じたズレに二分されている。平成10年度高等教育機能開発総合センター点検評価報告書 によれば,平成9年度には「理系→文系」の転部は,希望者も合格者も顕著な増加を示していることが指摘されており,潜在的な希望者はかなりの数で存在しているものと推定される。
2
提 言1)
クラス担任制について初年次学生に限って10名に1名程度のアドバイザー教授を指名し,修学・生活相談の窓口とする。
クラス担任は,アドバイザー教授の取りまとめ役を担い,必要な場合にアドバイザー会議といった形態で,学生の状況について共通理解を深めることに心掛けることを任務とする。
2)
学部教育の目的,履修等の指導について学部教育の目的・履修指導が専ら学部専門教育の側からなされていて,全学教育の意義が
十分説明されておらず,また全学教育と学部専門教育とのつながりについて適切に説明・指導されていないために,「全学教育と学部専門教育のつながりが分からない」という不満となって表われていると思われ,この点の改善が望まれる。3)
高校における未履修科目の特別指導について特別指導を望む声は,8割を超えており切実な問題であるが,平成10年度北海道大学高等教育機能開発総合センター点検評価報告書で指摘しているように,選抜方法を見直すほかなく,学部専門教育の基礎となる教科を,試験科目に加えることを含めて検討すべきである。
4)
転部・再受験について転部・再受験を考える学生が少なからず存在する現状に照らして,当面各学部で転部等の相談に対応する体制を整備し,今後転部受入れの方策に関し積極的に検討すべきであろう。
5)
学部情報提供の改善について情報提供の主力は「エルムの学園」や「学生募集要項」「受験情報誌」であり,受験生が,自由な選択ができ,志望を誤らないためにも「学部広報誌」「北大ホームページ」など新たな情報源の一層の充実が望まれる。
6)
新入生合宿研修について学部学生の自主的な企画を盛り込むことによって,幅広い人間関係を体験できる場とするならば意義のあるものとなり,まだ実施していない学部では検討すべき課題であろう。
7)
修学・生活相談機関について修学・生活相談機関の実態をあまりはっきりと学生が認識しておらず,積極的な広報がまず求められる。相談した学生では修学意欲がポジティブな方向に向かった者もおり,こうした点を拠り所として今後一層の充実が求められる。
第2章 学部における初年次教育の現状と問題点について
調査結果のまとめ
期待感にあふれた初年次学生に対して学部側が積極的に関わることがその後の学生の修学意欲にも大きく影響することから,各学部が初年次教育の在り方について改めて真剣に検討することが必要 |
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調査の目的学部一貫教育の利点の一つは,勉学目的が明確な学生が入学してくることであり,その結果,教育効果の向上が期待できることである。しかし,入学後に勉学目的を見失い,挫折感を抱く学生が増加している事実は,現状の学部一貫教育体制の欠陥を示すものである。
本調査は,各学部における学部一貫教育への取組み状況,特に初年次学生に対しての修学指導を学部がどのように行っているのかを明らかにすることによって,休・退学者増加の原因と,その背景にある学部一貫教育の問題点を探るために実施した。
U
調査の方法調査の対象
全学部長を対象に,平成10年10月にアンケート調査を実施した。
学部教育の充実を図るためには,学部長の現状認識が極めて重要との判断によるものである。
V
学部長へのアンケート調査結果1
入学時の対応について1)
入学時の対応について(1)
平成10年度学部ガイダンスの実施概要全学入学式の前後に,全学部が実施している。
実施内容は,学部長訓示の他に,学部概要説明,学習指導や厚生指導等であるが,サ
ークル紹介や図書館の指導を行っている学部もある。(2)
学部ガイダンスの効果学部長アンケートと同時に実施した学生指導に関する初年次学生に対するアンケート調査(以下「学生アンケート」という。)では,学部側の教育方針・目的の説明を理解しているか質問した。その結果,「理解できなかった」と回答した学生が多い学部は,文学部,理学部,工学部及び農学部であった。
「理解できなかった」学生の多い学部は多様な分野を包含する学部であるため,初年
次学生には理解が困難であったのかもしれない。そうであればなおさら,学部の教育方針・内容を理解できるように説明することも必要であろう。2)
新入生合宿研修について(1)
平成10年度新入生合宿研修実施状況経済学部と理学部以外は全て実施又は実施予定であった。このうち,7学部(文・教
・医・歯・薬・獣・水)では1泊2日で実施しており,学生の参加率(90〜100%) も非常に高い。実施内容は,学部長・学科長の訓話や学部紹介,研究紹介,厚生指導や懇親会等であ
る。(2)
研修の効果全学部が新入生合宿研修を今後も続けたい,あるいは実施を検討中であり,その教育効果に期待しているようである。
一方,学生アンケートでは,合宿研修でもっとも印象が強かったこととして,「友人ができた」ことが第一に上げられ,また,合宿研修の必要性につては,7学部全てにおいて多数の学生が「合宿研修は必要だと思う」と回答している。
2
初年次教育について1)
初年次専門科目について初年次開講に対する学部長の見解で,「現状でよい」とする回答は6学部(教・理・医・工
・農・水),「増やしたい」とする回答は6学部(文・法・経・歯・薬・獣)であった。増やしたい理由としては,学生の修学意欲や学部帰属意識の向上に対する期待が大きい。一方,学生アンケートでは,学部専門科目について最も多い回答は,「わかりやすい講義に心がけてほしい」ということであり,理系学部にこのような回答が多かったが,その背景には,高校における理科(特に生物や物理)未履修の問題があるものと考えられる。
初年次の専門科目の開講にあたっては,2年次後期以後の本格的な学部専門科目の開講に対して,学生が意欲をもって取り組めるような工夫が必要である。
2)
全学教育における単位認定(1)
学業成績評価について平成9年度本学年次報告書において,全学教育の学業成績評価は担当教官により大き
なバラつきのあることが指摘されたが,ほとんどの学部長は,基本的には授業担当教官 の判断に任せるとしても,何らかの判定基準が必要であると考えている。(2)
成績管理の電算化についてのメリット,デメリット成績証明書等の発行手続きの省力化や成績認定のスピード化等のメリットがある反面,
成績提出期限が早まったこと等により教育的配慮が困難になったことを指摘する意見が 多かった。これは,教務事務処理の効率性を求めるあまり,教育が画一化されることに対する各学部の危惧が大きいことを示すものと思われる。3)
全学教育の問題点と改善策建前上は全学的な支援のもとに始まった制度であるが,現実には学部一貫教育の中での全学教育の在り方についての全学的な合意が形成されているとは言い難く,様々な問題点がなお指摘されている。
学生アンケートでの「時間割が過密で希望する講義が受講できない」など学生が不満とする全学教育の問題点は,これまでにも幾度も指摘されてきたものであるにもかかわらず,未だ改善されていないことをアンケート結果は示している。
また,学部長アンケートでは,特に理系学部長から理科初習コースの必要性が指摘されており,学生アンケートでも理系学部の学生の80%以上が,高校での未履修の理科の特別指導を望んでいる。
以上のように全学教育の問題点は既にかなり明白になっており,問題解決のために新たに発足する総長を委員長とする全学教務委員会の指導性を期待したい。
4)
学部の初年次教育と学生の修学意欲について学生アンケートでは,約半数の学生が,「入学以前より修学意欲が低下,あるいは意欲が全く無くなった」と回答している。これは,大学入学のみを目的とする大学受験制度の影響と
考えられるが,注目すべきは修学意欲低下の原因として「(全学教育の)講義科目が自分の目指す専門に関係ないものが多い」とする回答が多数を占めたことである。また,約半数の学生は,学部帰属意識を強く感じるのは「専門科目を受講したとき」と回答している。興味深いことに,学生に対する働きかけを積極的に行っている学部の学生は,そうでない学部の学生に比べると明らかに修学意欲が高い傾向にあることが,学生アンケートの結果に
示されている。
3
調査結果のまとめ各学部とも初年次教育について様々に工夫し,苦心されている様子がうかがわれたが,初年次学生に対する学部の対応に関しては,学部一貫教育開始前の教養部制度の頃と同様の感覚がなお強く残っているようであり,この傾向は特に学科分属制をとっている大規模学部において強いようにも見受けられた。
このような学部一貫教育に対する学部側と学生側の意識の落差が学生の修学態度にも明瞭に反映されていることが学生アンケート結果にも示されていた。
期待感にあふれた初年次学生に対して学部側が積極的に関わることがその後の彼らの修学意欲に大きく影響することから,各学部が初年次教育の在り方について改めて真剣に検討することが必要である。
第3章 就職指導の在り方について
卒業年次の学部学生及び修了年次の大学院修士課程学生へのアンケート調査の結果から,次の事項を提言
1 大学全体関係(学生委員会及び就職情報資料室)1) 就職情報の積極的な提供2) 就職情報資料室を産業界にアピールするような形での就職情報の収集3) 産業界への積極的な働きかけ4) 学生の基本的な知識を高めるための基本的資料の準備5) 学生主体の企業セミナーの企画6) 就職に関する教養的授業の実施7) 求職活動中の女子学生に対するセクハラ行為に対する対策の検討
2 各学部・大学院関係1) 教員で組織する就職指導委員会の設置2) 就職ガイダンスの実施3) インターネット用の端末を設置した就職資料室の整備と求人情報・就職情報の積極的開示4) 企業研修やインターンシップを積極的に実施できる諸条件の整備5) 就職担当委員会で個人指導担当の委員を決めるなどの措置6) 実状と慣習に応じた就職斡旋の措置 |
T
調査の目的と概要1
目的狭い意味での就職指導体制の点検・評価にあるのではなく,むしろ,その整備と拡充のための基礎作業として,本学学生の求職活動と具体的な要求を明らかにすることにある。具体的には,
1)
学生の求職活動の実態をできる限り正確に把握すること2)
就職指導に関する学生の期待や要求を明らかにすること3)
大学として可能な就職指導の範囲と程度を一定の目安を設けること4)
大学としての対応と各学部の対応との境界を明確にすることの4点である。
2
実施方法と回収率1) 対 象 卒業年次学生(医学部と歯学部を除く。)
2,819名大学院修士課程の修了年次学生
1,426名2) 調査時期 平成10年10月
3) 配付・回収方法 各学部,研究科の教務担当掛で配付・回収
4) 回収率 学 部 38.6%(1,087名)
大学院 39.8%(567名)
3
調査結果の概要1)
本学学生の求職活動の実態(1)
求職活動の開始時期は,学部学生では「平成10年1月〜3月」32.5%が1番多く,順に「平成10年4月」19.6%であり,大学院学生は全般的に学部学生より早 い。(2)
就職内定通知を平成10年9月末現在で受けた学生は,学部学生60.4%,大学院 学生76.3%である。(3)
就職を決定した時期は,学部,大学院とも「平成10年6月」,「平成10年5月」,「平成10年9月以降」の順で,就職内定先に対する満足度は,学部,大学院とも95%以上できわめて高い。(4)
就職内定先の見つけ方では,学部学生は「自分で」74%と圧倒的であるのに対し,大学院学生では「自分で」が5割弱である。(5)
最も有効と考える就職情報源は,就職情報誌,ダイレクト・メール,インターネットである。(6)
内定通知の数は,1社のみが学部では約6割,大学院では8割を超える。(7)
北海道という地理的ハンディキャップを感じたと答えた者は,思いのほか多く,学部,大学院全体で6割を超える。(8)
女子学生のみへの質問であるが,求職活動で男女差別を7割の女子学生が感じており,セクハラ行為を受けたと答えた学生も18名いる。2)
各学部,大学院における就職指導(1)
就職の手引き「Be Ambitious」を役に立ったと答えたのは,1割に過ぎない。業種別の採用動向など新しい情報や自己分析や企業訪問などもっと具体的にとの要望が多い。(2)
クラーク会館に開設された「就職情報資料室」は,男子学生の6割以上,女子学生の5割が知らなかったと答えている。(3)
学部での就職情報や資料は,3割弱の学生が就職関係資料室で展示していることを知っているが,役に立ったと答えた学生は3割弱で,利用しなかった者は5割を超えてい る。(4)
学生個人に対する就職のあっせんは,学部26.0%,大学院44.5%であり,学科・専攻単位で行われている率が高い。(5)
就職指導に関し最も要望が高いのは,学部,大学院全体で「求人情報の積極的開示」であり,次いで「インターネットを含めての就職関係資料情報の充実」,「就職のあっせん」である。3)
今後の本学における就職指導のあり方(1)
インターンシップを知っている学生は約7割であり,企業や医療福祉施設などでの実習体験をする授業科目の必要性について,3割の学生がぜひ参加してみたいとしている。(2)
インターンシップは「職業選択の役に立つから必要」あるいは「自己の適性を知るうえで必要」とした学生が,ほぼ6割を占めた。(3)
就職指導に関する「教員で組織する委員会」が必要であるとしたのは,6割を超える。(4)
「就職指導担当の専任教官の必要性」に対しては,ぜひ必要であるという声は3割強である。(5)
「学生の自発的な参加による企業セミナー」など学生主体の求職支援活動にボランテ ィアとして参加する意思があるかとの問いには,「ぜひ参加してみたかった」約15%で,約4割は「あれば良いと思うが,参加する気はない」としている。(6)
道内に就職を希望する学生に対する特別の支援活動について,是非必要であると答えた者は,3割を超える。(7)
きめの細かい就職指導が必要かとの問いには,「ある程度は必要であるが,細かい点は学生の自主性にまかせる」6割弱,「有名私立大学並みの求職支援活動が必要」2割弱,「基本的に学生の自主性にまかせれば良い」15%程度である。4
まとめ求職活動の経験のある者は,求職活動に対する理解の程度も深く,就職指導の在り方にも一定の意見をもち,また就職指導に関する具体的な企画に参加する意欲も高い。
反対に,求職活動の経験のない者は求職活動に対する理解が浅く,就職指導の在り方に対して明確な意見をもたず,具体的企画に参加する意欲に乏しい。
本学学生には後者に属する学生がかなりの比率で存在し,それが本アンケートの回収率の低さとなっているように思われる。
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改革の提言1
本学における就職指導の基本方針就職指導については,
(1)
就職ガイダンスなどで求職活動に対する意欲を高め,一般的知識・心得などの徹底を図る。(2)
インターネットを含め,就職関係の資料・情報を充実させる。(3)
求人情報を積極的に収集し開示する。(4)
進路の決定や求職活動での悩みに関して個人指導に力を入れる。(5)
就職のあっせんをする。など,多面的な対応が要求される。さらに私立大学並みのきめの細かい就職指導として,
(6)
就職適性試験(7)
教員関係ガイダンス・模擬試験(8)
公務員関係ガイダンス・模擬試験(9)
小論文講習会(10)
模擬面接などがある。
しかし,職業選択を含めて卒業後のあるいは修了後の人生を設計することは,学生自身の責任であり,崇高な義務である。求職活動は基本的には学生の自主性に委ねられねばならない。
したがって,本学における就職指導の基本は,上記(1)〜(4)をきめ細かく実施し,またその条件整備に置かれるべきである。
2
本学(学生委員会)と各学部,大学院の関係1)
大学全体関係(学生委員会及び就職情報室)(1)
就職情報の積極的な提供本学では,就職情報資料室の設置,就職の手引き「Be Ambitious」の配付,求人情報と就職資料の開示などを実施しているが,このような情報が就職希望学生に十分伝えられていない。学生委員会側の広報誌「えるむ」などを通して一方的に情報を伝達するだけでなく,各学部・大学院の就職担当委員会からも伝えるような措置を講ずる必要があ
る。(2)
就職情報資料室を産業界にアピールするような形での就職情報の収集就職情報資料室が,個人への就職あっせんは無理としても,その存在を産業界にアピールするような形で求人情報を収集することも1つの可能性ではないだろうか。学生委員会での積極的な検討を期待したい。
(3)
産業界への積極的な働きかけ地元志向の支援及び女子学生対策は,実質的には求人情報の積極的収集を意味するから,産業界に対する積極的な働きかけは不可欠である。
(4)
学生の基本的な知識を高めるための基本的資料の準備就職試験や面接試験に対する対応策は学生個人の責任で行われるべきであろう。しかし,このことは就職情報資料室にそれに関連する資料,問題集の類を用意する必要が無い,ということを意味しない。学生の基本的知識を高めるために基本的なものは準備しておく必要がある。
(5)
学生主体の企業セミナーの企画求職活動に対する意欲と積極性を高めるためにも,学生主体の企業セミナーを企画する必要があるが,本学学生がこの種の企画にそれほど関心を示さない点を考慮し,最初の段階では学生委員会が自ら企画し学生の参加を求めるなどの方策を採ることが望まし
い。(6)
就職に関する教養的授業の実施専任教官の配置なしには困難である。地理的ハンディキャップを考慮して,適切な機関でこの問題を積極的に検討すべきであろう。
(7)
求職活動中の女子学生に対するセクハラ行為に対する対策の検討この問題に関連する他の学内委員会と連携し,早急に対応策を講ずる必要がある。
3
各学部・研究科関係1)
教員で組織する就職指導委員会の設置教員で組織する就職の指導委員会を設置すること,あるいは既存の学生委員会で就職指導をその主要な責務とする。そのことによって,各種の就職指導及び支援体制に関する情報が周知される。
2)
就職ガイダンスの実施それぞれ固有の教育研究分野の実情に応じて,就職ガイダンスを実施することが望まし
い。3)
インターネット用の端末を設置した就職資料室の整備と求人情報・就職情報の積極的開示就職資料室には,学生の必要とする資料情報を常備するよう努力すべきであるが,その一つとして最近の卒業生(修了生)の就職先を明示した名簿は不可欠である。
また,各学部ごとの就職資料室に複数の端末を設置して,可能な限り自由に利用できるよう配慮すべきである。
4)
企業研修やインターンシップを積極的に実施できる諸条件の整備各学部,大学院の教育研究の実態に応じて,企業研修やインターンシップを積極的に実施できるよう早急に諸条件を整備することが望ましい。
5)
就職担当委員会で個人指導担当の委員を決めるなどの措置各学部,大学院で独自に個人指導のための窓口を開設することが望ましいが,現状では
困難である。その実情に応じて,就職指導担当の委員会で個人指導担当者を決めるなど,適切な措置を講じることを期待したい。6)
実状と慣習に応じた就職斡旋の措置就職のあっせんについては,各学部,大学院が学生の期待に応えることは事実上不可能であるが,実状と慣習に応じた措置を期待する。
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