文系部局

○外国語によるインタラクションを考える  留学生センター教授  柳町 智治

私は普段は留学生センターで留学生を対象にした日本語クラスを主に教えていて、全学教育部では複合科目を他教員とリレー形式で教えた程度の経験しかありません。今回このような評価を得て少しは自信になったのですが、実は、全学教育科目を教えるのは苦手でした。留学生センターの学生と比べると、全学教育科目の学部生が授業で「引いて」しまっているように感じられ、なんとなく居心地が悪かったのです。

そんな経験もあり、今回の一般教育演習を一人で提供するにあたっては、いかに受講者の間にインタラクションを生み出すかを自らのテーマにしました。この目標は、授業の題目である「外国語によるインタラクションを考える」とも重なっています。外国語であれ母語であれ、人々が言語を使ってどのように他者とのインタラクションを組織化しているのかを「相互行為」の視点から探求することが本授業の目的だったのですが、受講生がそのことを文献やレクチャーなどから知識として得るだけでなく、授業中、見学先、あるいはグループ作業といったさまざまなインタラクション場面に身を置くことで、実際に観察、体験できるようにしようと考えました。

受講していた21名はほぼ全員が入学したての1年生で、授業中にまとまった量の発言を求められるのには慣れていません。レクチャーや課題として読んだ論文では英語のデータも扱いましたが、教室でのやりとりはすべて日本語で行いました。それでも授業中はかなりプレッシャーがあったようで、ある学生は学期終了後、「先生の授業では最初の頃はすごい不安で、いつも心の中で『どうしよう、どうしよう』と思っていた」と打ち明けてくれました。かく言う彼女も、学期後半にはディスカッションの「さばき役」をこなすようになるなど、大きく成長した一人でした。

授業の具体的な進め方ですが、まず、A4紙1ページ程度で答えてくる課題を毎回課しました。学生はその課題をやってこないと授業に加われないので、必ずやってきます。そうやって事前に時間やエネルギーを「投資」した学生は授業中も積極的に参加するようになります。さらに、学生が提出してきた課題にはコメントをつけ、いいものには「ここの考察はおもしろい。授業で皆に紹介しよう」などと書いて次回の授業で発言するよう促しました。学生はいい意見やアイデアをもっている時でも、教室で発言するのを躊躇します。教師が彼らの背中を押してやることも大事です。このように、毎回の授業の最初の3分の1ほどは、コメントがついて戻ってきた課題も使いながら皆でディスカッションを行い、前回の授業で扱われたテーマをさらに深く検討しました。また、小さな工夫としては、提出させる課題の右上端にその課題にどのくらいの時間がかかったかを書かせ、準備にかかる負担が大きすぎたり小さすぎたりしないよう、教師が課題の難易度や量を調整しています。

課題の一つとして、留学生センターで私が教えている日本語の授業を見学させたこともあります。彼らは、今まで見たことのないような活発なインタラクションが教室内で展開されている様子に触れてかなり刺激を受けたようで、自分たちの授業とどこが違うのか、見学から戻った時の授業で真剣に議論していました。また、学期末にはグループプロジェクトとして、人々の日常会話を録音録画し文字化したデータを分析して、プレゼンとレポートにまとめました。この課題では、グループメンバー全員に同じ評価がつくというルールでやりました。成績が個人につくのは大学までで、社会に出たら企業でも研究教育機関でも、他者との協同作業を通して成果を出します。他者と協調しながら実践を組織化する術を学ぶことができるのも、一般教育演習科目のいいところだと思います。

この15週間はまさに試行錯誤の連続でした。最後まで受講してくれた学生諸君に感謝したいと思います。最後になりますが、大学にお願いを一つ。今回当てがわれたN棟の教室は非常に使いやすかったのですが、机が3人がけの長机で、椅子が可動式でないのはどうにかならないでしょうか。新しい授業のあり方を模索することは、教室内の人やモノをどのように配置するかという「空間のデザイン」の問題と切り離せません。机や椅子が旧来のものと同じままでは、せっかくの少人数クラスも十分に活かされないのではないかと思った次第です。


top先頭へ戻る