フィールド、ふぃーるど、Field

臼尻フィールドガイド第4弾

文責:佐藤

 イカの中で最も大きい種類は?と聞かれた時に、動物が好きな人だったらほとんどの人がダイオウイカだと分かるのではないでしょうか。しかし最も小さいイカについては答えられる人はあまりいないでしょう。私、佐藤も、その存在を知ったのは研究を始めた去年のことでした。

 ”最も小さいイカ” 名前はヒメイカといいまして、大きさは足まで入れても2cmくらいにしかなりません。だいたい一円玉くらいの大きさです。しかし実は、彼らは他のイカと比べて、小さいということ意外にもいくつか変わった特徴を持っているのです。

 まずは彼らの食事の仕方。イカは触腕と呼ばれる2本の長い腕を使い獲物を捕らえます。そして足の中心に位置する口でモリモリ食べるのです。ヒメイカも餌の捕獲までは他のイカと同じですが、捕まえたあとの食べ方が少し変わっています。彼らの口は伸縮自在になっていて、主な餌であるヨコエビやイサザアミを捕まえると、エビの殻の隙間から口を入れ体の中を食べ進みます。ハリウッド映画のエイリアンを髣髴とさせる食事風景は一見の価値ありです。

 また、ヒメイカは背中にある粘着細胞から粘着物質を出し、海草や定置網のロープなどに忍者のようにくっつくことができます。彼らを観察するとほとんどの時間、何かにくっついて休んでいます。

 このように面白い特徴を持つヒメイカ。彼らは世界に7種が確認されているヒメイカ科に属します。ヒメイカ科はアフリカ、インド、タイ、インドネシア、オーストラリアといったインド洋を囲む温暖地域の沿岸に生息しています。その中でヒメイカは最も北に分布する種であり、季節が春、秋、冬の3つしかないで有名な(注:フィクションです)ここ臼尻にも9月から1月の比較的水温が高くなる時期に見ることが出来ます。

 さきほど上で書いたようにヒメイカは普段、アマモなどの海草にくっついています。アマモは波が穏やかで、水深が浅い(3m程)、砂地に生えている海草です。臼尻では小規模ですが、アマモ場があり、津軽暖流が噴火湾に流れ込む9月になるとアマモにちょこんとくっついているヒメイカを見ることができるのです。

 臼尻は2月になると水温が2,3℃まで下がります。彼らの生活史研究をするきっかけは、「こんな低水温でがんばっている奴らは本土のあったか水温でぬくぬくと暮らしている奴らと異なる生活史を持っているに違いない」という動機からだったのですが、一年を通して観察してきた結果、残念ながら臼尻では1月下旬くらいからその姿を見せなくなることが分かりました。やはり冬場の臼尻低水温はヒメイカにとって越えられない壁だったようです。

 しかしそのような悪条件の臼尻でも、彼らの産卵を観察することが出来ます。短い期間でも、人生のメインイベントを臼尻で行ってくれるサービス精神に涙、涙の佐藤です。

 今年も8月を過ぎようとしていますが、未だ彼らの姿を見つけることは出来ません。ヒメイカとの出会いを楽しみにしつつ、ここらで筆を置かせていただきます。

写真協力(最下のみ):佐藤長明 (ダイビングサービス グラントスカルピン)