調査研究報告

文責:山崎

20134月某日、一通のメールが届いた。

件名:Your Submission

これは……投稿していた論文の返事だ!

一旦席を立ち、隣の部屋でお茶を入れ、一息つく。

よしっ!と気合いを入れ、本文を開く。

本文を開くまでにかかった時間、約10分。

I am pleased to tell you that your work has now been accepted for publication in Marine Biology…

ああ、やっと、やっと受理された…!

何と3回目のmajor revisionで、今回のリバイスでダメだったら、この雑誌もダメだと思っていただけに、込み上げてくる嬉しさも大きかった。

−−−

そもそも、今回投稿していた論文は卒論を英語に直したものだ。

卒論を日本語で書き上げた私は、まずそれを英語に直すことから取りかからねばならなかった。同じような方法を使って解析されたいくつかの英語論文を参考に、数ヶ月かけて仕上げた。

世間知らずの私は、分子系統学を扱う中で最もインパクトファクターが高い、超一流の雑誌に投稿した。そしてその返答は1ヶ月ちょっと後にやってきた。

残念なお知らせとともに。

担当して下さったエディターが言うには、このレベルの雑誌に出すなら(遺伝子解析部分が)ミトコンドリアだけじゃ無理だ。原著論文は無理だろうけど、短報ならもしかしたらいけるかもしれない。とのことだった。

じゃあ、短報の形式に合わせて再投稿だ!と意気込んですぐに再投稿したものの、また1ヶ月後に届いたメールはリジェクトのお知らせ…。しかも、この内容と解析方法ではこの雑誌に掲載することは無理だろうと、書いてあった。

メール本文を読んでいくうちに、“リジェクト”の言葉が重くのしかかり、どんどん気分が落ち込んでいく。それに、レフリーのコメント内容も初めて聞く単語ばかりで意味が分からない…。

思考をストップさせた私は、「ダメでした。」とコメントを付け加え、エディターからのメールを先生に転送した。歩いて数mの、同じ実験所の建物の中にいるにもかかわらず、直接話にも行けないくらい落ち込んで、午前中は宿泊棟に引きこもった。

12時間経つと、いい加減落ち込むのにも疲れて、研究室に戻った。その頃合いを見計らってか、先生が院生部屋に入ってこられた。

「お、もう復活したのかい?思ったよりも早いなあ、はは」

…。周りにみんないるのに、ダメだったのが一瞬でばれてしまったではないかー!

何はともあれ、その後、指摘された解析方法を一からやり直した。意味不明だったレフリーコメントも、論文を読んで勉強して何とか理解した。全く使い方が分からなかった解析ソフトは、自力でやれるところまでやり、1ヵ月経ってもできなかった部分は東大の井上潤さんに教えて頂いた(パラオ沖で調査中であったにもかかわらず、お忙しい中メールで丁寧に教えて下さりました。本当にありがとうございました!)。

2度目のリジェクトを受けてから3ヵ月後、今度は別の雑誌に投稿した。

返ってきた返事は、major revision。内容を大きく変える必要があるけど、これを直せば受理する、というものだった。しかしながら(やはりと言うか)、今回のレフリーコメントも非常に理解に苦しむ指摘が山盛りだった(※注:私の脳みそが追いついていないだけ)。

このやり取りをあと2回繰り返した後、やっと、冒頭のメールを得ることができた。そして、私が3回もメジャーを受けている間、北洋研の同期は、私と同じ雑誌に投稿し、1回のメジャーのみで受理されていた。かの有名な、イカが空を飛ぶ!の論文だ。同じ時期に投稿し(私は再投稿)、向こうはA Happy New Year!で始まるメールを、私はおなじみのYour Submissionで始まるメールを受け取った…。

ちなみに、2回目、3回目もメジャーで返ってくると、リバイスの度に、今度こそはダメなんじゃないか、と内心とても焦る。エディターが気長に待ってくれていたのが幸いだったのかもしれない。そして、エディター、レフリーともに、有益なアドバイスと情報を惜しげも無く与えて下さったおかげで、世に公開できるレベルになった。今回の一連の投稿で得られたものは多く、今後のためになることばかりだった。

また、拙い文章と内容を添削して下さった宗原先生、英文添削して下さったジョン先生、解析方法を教えて頂いた東大井上様に、この場をお借りしてお礼申し上げます。特に、添削後でも文章・内容に全く進展の兆しが見られない私を見捨てずに最後まで面倒を見て下さった宗原先生、本当にご迷惑をおかけしました…。本当にありがとうございました。


Molecular phylogeny and zoogeography of marine sculpins in the genus Gymnocanthus (Teleostei; Cottidae) based on mitochondrial DNA sequences

(邦題:ミトコンドリアDNAに基づいたツマグロカジカ属の分子系統と生物地理)

Aya YAMAZAKI, Alexander MARKEVICH & Hiroyuki MUNEHARA

Marine Biology (in press)

online: 1 May 2013

DOI: 10.1007/s00227-013-2250-4

【和文要旨】

カジカ科の中で最も広い分布範囲を持つツマグロカジカ属は、現在6種で構成され、北半球高緯度域に分布する。本属の系統関係と分岐年代を推定するため、12-16S rRNACOICytb領域の部分配列計2,548bpを用いて解析を行った。その結果、アリューシャン列島で起源した本属は単系統を形成し、約810万年前に浅海系統と深海系統に分かれたことが明らかになった。浅海系統のシベリアツマグロカジカは、ベーリング海峡が最初に開いた500万年前に太平洋から北極海へ移動したと推定された。また、2回目の移動は、390万年前にハゲカジカとアイカジカが分岐した後に起こったと推定された。これらの結果について進化および生物地理の点から考察を行った。

1.ツマグロカジカ属6種の分布域。

1.ツマグロカジカ属6種の生息水深範囲。

2.各領域における塩基置換数とその割合。

2.ツマグロカジカ属の分子系統樹。上がベイズ法、下が最尤法により推定された系統樹。シベリアツマグロカジカの位置のみが、両方法で異なる。Wilson(1973)により推定された形態系統樹は最尤法(下)を支持する。外群には、ギスカジカ属、ケムシカジカ属、カジカ属を使用した。

3.推定された各種の分岐年代。下の軸は年代(単位:百万年前)、青いバーは95%信頼区間を示す。下の浅海系統はバーが短いが、他は長くなってしまっていることに注意が必要。

4.各種の種分岐と海水準変動。横軸は年代、縦軸は海水準(現在:0)を示している。灰色の網掛け部分は、海水準が40m以上低下した時、すなわちベーリング海峡が閉鎖した時を示す。


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