文責:木村

安全に潜水調査を行うために

  臼尻水産実験所では、三方を海に囲まれている地の利を生かし、潜水を主体とする調査研究が行われています。そのわりにこれまでは、潜水調査の手順や安全管理についてのきちんとしたコンセンサスが無いまま、ちょっと大げさに言えば「めいめいがそれなりに気をつけながら勝手にやる」というスタイルを続けてきました。少なくとも私はそうでした。
  そして起こるべくしてやはり事故は起きてしまいました。というよりも、起こしてしまいました。水深20mでの調査区作成の作業中、いつもとは比べものにならないほどの運動量だということを全く計算に入れていなかったため、エアー消費の見積もりを誤り、エアー切れ、急浮上、減圧症への罹患。という最もやってはいけないミスを犯してしまいました。経験を過信せず、こまめに残圧をチェックしていれば防げた事故でした。ひとえに、安全潜水に対する意識の低さが引き起こした事故だと思います。幸い私は、以前減圧症にかかった先輩からどの病院にいけばよいか、どのような治療をしてもらえばよいかなど、事故後の対応を教えてもらうことができたので、すぐに再圧治療を受けることが出来ました。もし自分が初めてだったら、どうしてよいかも分からずに、手遅れになっていたかもしれません。初めて、潜水の恐さを意識した瞬間でした。
 時を同じくして、昨年の日本生態学会大会では「フィールドでの安全をどう確保するか」という自由集会が開かれました。私はこれに参加し、個人の意識はさることながら、組織としてもっと体系的にフィールドでの行動技術を学ぶこと、安全管理体制を構築することの重要性を改めて認識しました。こうして臼尻水産実験所安全管理委員会が誕生したわけです。
テキストブックの作成に当たり、構成、内容に関する会議を何度も開きました。各章の執筆は実験所のメンバーが分担して行いました。校正作業は全員で行いました。その中で、メンバーの安全に対する意識が、一歩一歩確実に変わっていったという実感があります。今後も少しずつテキストブックの改訂や加筆を続けながら、絶対に重大事故を起こさない実験所を作り上げてゆきたいと思います。

(ご案内)
  当テキストブックは臼尻水産実験所周辺での潜水を念頭において我々が遵守すべき安全指針をまとめていますが、潜水技術や応急処置の仕方、大学のフィールド施設等での安全管理についてなど、より一般的な内容も含んでいます。
  安全のため、当実験所において潜水される方に配布しご一読いただいております。当実験所以外の大学等研究機関でも、研究のために潜水される方にはご要望があれば郵送いたします。目を通してみたいと思われる方は、下記連絡先までご連絡ください。ただし、送料はご自身で負担していただくことになります。
  tel: 0138-25-3237
  e-mail: hm@@fsc.hokudai.ac.jp (メール送信の場合、アドレスから一つ@を抜いてください)

 目次

第1章 安全に調査を行うために
  1.1. はじめに
  1.2. 事故に繋がる要因を知ろう
  1.3. フィールド研究における安全管理

第2 章 フィールド調査の流れ〜計画から調査終了まで〜
  2.1. 調査計画を綿密に立てよう
  2.2. 装備を整えよう
  2.3. 潜水直前の安全確認をしっかりしよう
  2.4. いざ潜水!
  2.5. 無事調査が終了したら

第3 章 正しい潜水技術を身に付けよう
  3.1. エントリーとエキジット
  3.2. 潜行・浮上テクニック
  3.3. ナビゲーション
  3.4. ボートダイビング
  3.5. ナイトダイビング

第4章 潜水に潜む危険やトラブルへの対処法を知っておこう
  4.1. 潜水に潜む危険について知っておこう
  4.2. 潜水中のトラブルへの対処法を知っておこう

第5章 事故に迅速に対応するために
  5.1. 万が一事故が発生したら・・事故への対応フローチャート
  5.2. 緊急時連絡網
  5.3. 心肺蘇生法 ( C. P. R )

第6章 フィールドを知ろう
  6.1. 海底地形を熟知しよう
  6.2. 海況の特徴を知っておこう
  6.3. 海況を予測しよう

第7章 ロープワーク
  こんにちは、臼尻水産実験所安全管理委員会 委員長の木村です。委員会といっても委員は実験所メンバー全員なのですが、当委員会では昨年度より約一年をかけて、「安全管理テキストブック」を作成いたしました。

(表紙: ナーカム ラトール氏)

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