周辺の海洋構造

臼尻実験所は噴火湾口部に位置するため,臼尻沖の海洋構造は,噴火湾で季節的に起こる親潮系水と津軽暖流水の水塊交替の影響を受けます。

すなわち,融氷水により希釈された十勝沿岸付近の親潮表層水が,2月に噴火湾口北岸沿いに湾内に流入し始め, 5〜6月まで続きます。この間,流入した親潮系水の表層は,湾内に注ぐ融雪に由来する河川水による希釈と太陽幅射量の増大により低比重水に変質して,表面から20〜30mのまでの海面をおおいます。そのため,この水深に顕著な躍層がつくられることになります。この躍層以浅の親潮系水は,特に「夏期噴火湾水」と呼ばれています。


初夏の前浜 〜写真左下に実験所の採水ポンプが見える〜

7-8月になると,これまで徐々に範囲を拡げてきた津軽暖流水は,比重が夏期噴火湾水より大きいため,湾口北岸から反時計回りに湾内の中層以深に流入してきます。秋になると,この津軽暖流水の流入は,中層に停滞していた親潮系水と表層夏期噴火湾水を湾外に押しやり,やがて湾内は津軽暖流水に置き換えられることになります。この水塊交替は通常11月には完了します。この時期はすでに冷却期に入り対流混合により塩分は鉛直的に均質化し,海底直上に蓄積されていた栄養塩類が上層に補給されて,栄養塩類の乏しい津軽暖流水が栄養塩類に富む水に変質し,「冬期噴火湾水」と呼ばれる水塊が湾全体を占めるようになります。

 
臼尻水産実験所:岬の先端部に位置する
(写真提供:北海道開発部)

2月に流入する親潮系水は,流入前に希釈されて,親潮本流の半分ほどの栄養塩類濃度となっています。これは冬期噴火湾水と同程度の濃度ですが,これら2つの水塊のもつ栄養塩類は,噴火湾で2〜3月にみられる植物プランクトンの大増殖(ブル一ム)を引き起こすには十分です。植物プランクトンは,動物プランクトンの餌となり,魚類などの稚仔はこれらを餌となります。そのため,ブルームの規模と時期は,その海に生息する生物の量に大きな影響を与えることになります。

4月以降に流入する親潮系水は,湾外でのブル一ムで栄養塩類を消費しているために貧栄養塩であり,夏期噴火湾水が底層からの栄養塩類の供給を妨げているために噴火湾では秋のブル一ムはみられません。

このように親潮系水と津軽暖流水が交互に噴火湾を出入しており,水塊交替量からみると, 3〜8月の6か月間は親潮系水が,10〜1月の4カ月間は津軽暖流水が支配的であり, 9月と2月はそれぞれへの移行期にあたります(下図を参照)。

臼尻の沖合では,こうした海洋変動に対応して,魚類をはじめとして様々な生物の暖海性の種,寒海性の種が季節的にあらわれ,一年を通じてみると多彩な生物相が構成されるというわけです。

なお,ここでの情報は,物理海洋学講座と生物海洋学講座の研究成果です。

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